お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

帰宅してしばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。
いつもの配食サービスの夕食だ。
橘が無言で立ち上がり、玄関で受け取ってくれる。

包装を丁寧に外し、電子レンジに入れて温める音がキッチンから聞こえる。
続けて、ポットに水を入れてお湯を沸かし、湯のみまで用意している気配がした。

しばらくして、橘が湯気の立つお茶をテーブルに置く。

「……なんか、手厚いですね」
紗良がそう言うと、橘は少しだけ視線を上げた。

「上から言われてますから。身の回りのサポートが必要なとき、部外者を出入りさせるのはリスクになる。だから、可能な範囲は警護官が対処しろと」

それは納得のいく理由だった。
けれど橘は、そこで言葉を止めなかった。

「本来、要人なら初めから秘書や世話係がついてる。でもあなたは、あくまで“例外”だから。だから――」

そこまで言って、ふと黙る。

紗良は、じっとその続きを待っていた。
橘の口元がわずかに揺れて、少し照れたように、しかし真っ直ぐに言葉を落とす。

「……あなたには、できるだけ穏やかに過ごしてほしいから」

その声が妙に優しくて、静かで、思わず視線を上げると、橘がこちらの手をそっと取っていた。
手の甲に触れる体温が、やけにまっすぐだった。

「あなたが少しでも、ほっとして笑ってくれているのが……私にとっての、何よりの喜びですから」

それは、警護官としての台詞ではなかった。
ただ、ひとりの男としての、飾らない想いだった。