お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

橘は夜の舗道を一歩一歩踏みしめながら、静かな息を吐いた。
足音と風の音しか聞こえない。だが、その静寂が今の自分には心地よかった。

──あの人が、俺のことを「好きみたいで」なんて、あんなふうに言うとは思わなかった。

頬が少しだけ熱を帯びる。無意識に首元を緩めながら、笑みがこぼれるのを止められなかった。

「……まいったな」

警護官として、彼女の前では常に冷静でいようと心掛けてきた。
過去のことを知られて、同情されたくなくて、深入りされたくなくて、距離を保とうとしていたのは、きっと自分の方だったのに。

でも彼女は、まっすぐだった。どんなときも、誰かの言葉や目を気にしてきた彼女が、今日、自分の前でだけはまっすぐだった。

「……あのとき、受け止められて良かった」

傷つけるんじゃないかと何度も思った。
こんな自分が、誰かに必要とされることなんてないと思っていた。
でも、彼女が涙をこらえながら語った想いは、自分の中の何かを確かに変えた。

「俺も……ずっと前から、気づいてたのかもしれない」

声に出してみると、不思議と心が静かになった。
警護官としてだけじゃない。人として、彼女のそばにいたい。
その想いは、もう否定できないところまできている。

信頼では説明しきれないこの気持ちを、少しずつ言葉にしていこう。
彼女の隣に、ふさわしい存在であれるように。

──そう思いながら、橘は交差点で足を止め、夜空を見上げた。

雲の切れ間から、月が静かに顔を出していた。