お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

午前8時20分。
車列は「帝都コンベンションホール 第3会議棟」の地下専用出入口へと静かに進入した。

関係者と警備関係者のみが使用を許された搬入通路は、既に所轄の私服警察官たちが数人配置されており、出入りのすべてが目視と無線で管理されている。
車が停止すると、先導の河田が素早く降車。周囲の確認を終えると無線で一言、橘に伝えた。

「クリア。どうぞ」

橘は助手席からゆっくりと降り、後部ドアを開ける。
松浦が先に降り、周囲をぐるりと一周するように視線を走らせた。
その動きに続いて、紗良が車外へ出る。

──地下通路は、ひんやりとしていて、思っていた以上に静かだった。
だが、その静けさの裏に、張り詰めた警備の空気が漂っていた。

橘がそっと紗良に寄り、「このまま、エレベーターで控室へ向かいます」と伝える。

すぐに村上と金子が姿を現し、入れ替わりで先行警備の補助に回る。旗野は車列を離れ、外周の持ち場へ。
全員が無言で、それぞれの配置に流れるように移っていく。

控室へ向かう廊下を歩きながら、紗良は一つ深呼吸をした。
前へ進む河田の背中、すぐ後ろに控える橘の気配。
そのすべてが、黙って自分の緊張を包み込むようで、不思議と足取りは軽かった。

(大丈夫。大丈夫、今日一日だけは)

控室前に立った河田が軽くノックをし、関係者と確認を取り合ってからドアを開けた。
中は、シンプルな応接セットと小型冷蔵庫、姿見、花が一輪だけ飾られたサイドテーブル。
壁には今日の会場スケジュールが貼られている。

「ここが控室になります。スケジュールまでに余裕はありますので、少しお休みください」

橘の声に紗良が頷き、室内に入ると──
扉の向こう側で、またひとつ、静かに「本番」が始まっていた。