お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

車はゆっくりと、まだ朝の空気が残る市街を走っていた。

紗良が乗るのは中央の警護車両。
運転席には専任の警察官。助手席には橘、後部座席には紗良と松浦が座っている。
前方の先導車両には河田ともう一人の運転専門警官。
後方を走る随伴車両には旗野ともう一人の運転手──静かだが堅牢な布陣だった。

車内には、わずかに無線の音とタイヤの振動が響く。
そんな中、橘が前を向いたまま、穏やかに口を開いた。

「改めて、本日の注意事項を確認させていただきます」

紗良が軽く頷くと、橘は一つひとつ、落ち着いた口調で説明していく。
会場内の移動ルート、緊急時の対応、報道が入る社長スピーチの時間帯──
その合間に、ふと声のトーンが少しだけ変わった。

「もし、体調に異変を感じたら、すぐにそばの警護官に伝えてください。
緊張や疲労、気づかぬうちに負荷がかかっている場合もあります。無理は禁物です」

紗良は「はい」と短く返したが、自分の胸の内を探るように、視線を少しだけ横にずらした。
隣に座る松浦が、無言で装備のチェックをしているのが目に入る。

無線機を指先で軽く触れ、袖口のマイクに視線を移す。
続けて、スーツの下に手を入れ、防弾ベストの留め具を確認。
腰には拳銃、警棒、それぞれの位置と重みを確かめるように、ごく自然な動作で目視をしていた。
その表情は真剣で、静かだが隙がない。

──こんな人たちに、私は守られてるんだ。
そう思った瞬間、胸の奥に小さな何かがひやりと落ちた。

緊張しているのか。
それとも、警護官たちの動きに触れて、ようやく「重大さ」を体が理解し始めたのか。
自分でも、よくわからなかった。

車の窓の外を流れる街並みは、どこか遠い場所のようだった。
けれど、そのすべてが、今この瞬間に向かって動いている。
そう思うと、喉の奥が少しだけ詰まった気がした。