お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

まだ休憩時間が数分残っていることを確認して、紗良は静かにデスクの引き出しからスマートフォンを取り出した。

ふと画面を見ると、SNSのDM通知が複数件ついていた。
軽くタップして開く。
一瞬の気の緩みだった。

——その瞬間、呼吸が止まりかけた。

「お前も終わりだ」
「いつでも狙える」
「お父さんの罪を一緒に償ってもらおうか?」

次々に表示される、暴言と脅しのメッセージ。

(……っ)

背筋がゾッと冷えた。手がわずかに震える。
思わず、スマホを持つ手を膝の上に置いて隠した。

平静を装いながら、視線だけを橘へ向ける。
壁際に立つ彼は、周囲に気を配るように静かに目を動かしていたが、こちらの異変には気づいていないようだった。

(大丈夫……。ただの、暇人が送ってきてるだけ)

そう言い聞かせて、紗良は深く息を吐いた。
手早くDMを削除し、スマホをデスクへ戻す。

その直後、職場に心地よい音色のオルゴールが流れ始めた。
休憩時間の終わりを知らせるものだ。

(気にしない。仕事に集中しよう)

気を取り直し、紗良はデスクトップのモニターに向き直った。
海外の商社から届いていた英語のメールを開き、必要な情報を日本語に訳して、各部署に振り分けていく。

誰にも気づかれず、何事もなかったかのように。

数十分が経ち、ふと、軽い腹痛を覚えて紗良は席を立つ。

その瞬間、背後から声がかかった。

「どちらに?」

橘だった。立ち姿勢のまま、声も低く落ち着いている。

紗良は短く、「お手洗いに」とだけ答える。

「わかりました」

やはり、変わらない。
感情の色を持たないその声に、なぜか少しだけ安心し、そしてほんの少し、むず痒さを感じた。

(……あのDMのこと、誰にも知られたくない)

そう思いながら、紗良は背筋を伸ばして、静かに歩き出した。