お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

橘が無言で一礼して、淡々とした足取りで執務室を後にすると、
旗野はいつも通りの落ち着いた表情で、ドアの内側に立ち、
部屋の空気をひと呼吸だけ読むように間を置く。

「さて、私はここでしばらく見張り番です」

旗野はそう言うと、部屋の隅に控えめに立つ。
その口調はどこか和やかで、橘とは違った安心感を持っていた。

紗良が一息ついて書類に目を通そうとしたとき、旗野がぽつりと呟く。

「……それにしても、橘。あんなふうに笑うの、久しぶりに見ましたよ」

紗良が手を止めて顔を上げると、旗野はいたずらっぽい目でこちらを見た。

「一ノ瀬さん、あいつとどういう関係なんです? 別に詮索するつもりはないけど……ほら、気になってしまって」

紗良はちょっと目を伏せ、笑いながら首をかしげた。

「どうって……SPと、対象者の関係ですよ。彼、すごく真面目だから」

旗野は目を細めると、
「そりゃあ知ってます。真面目すぎて心配なくらいですから」
と頷き、少し間を置いてから続けた。

「でも、あれだけ感情を隠す男が、自分から感情を見せるとしたら……それは、ただの職務以上のものがあるときでしょうね」

紗良は何も言わなかった。
ただ、小さく息をついてから、手元の書類に再び視線を落とした。

旗野はそれ以上深くは聞かず、「ま、変なこと言ってすみません」とひと声かけて、
静かに執務室のドアの外へと立ち位置を戻した。

執務室の空気は、少しだけ穏やかになっていた。