お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

「……このままじゃ、株主に示しがつかん!」

会議終盤、社長の不満がぶつけられた。長時間にわたる意見交換の末、社長の顔には明らかに苛立ちの色が浮かんでいる。

その一言が引き金となり、役員のひとりが声を荒げる。

「だから言ったじゃないですか、最初からこの予算案には——」

その声が少しだけ大きかっただけで、紗良の身体はびくりとこわばった。

(……あ)

息を呑むようにして、彼女は無意識に背を丸め、テーブルの下で両手を組み合わせて押さえるように握った。軽いめまいと、喉の奥がかすれるような息苦しさ。心臓が変なタイミングで跳ねたような、脈が飛ぶような感覚。

そのとき、誰も紗良に気づいていなかった。会議はそのまま形式的な締めに入り、終了が告げられる。椅子が次々と引かれ、資料が閉じられ、部屋の空気が一気に軽くなる。

けれど、紗良だけは、動けなかった。

すぐ隣に座る部長も、気づくことなく立ち去っていく中、壁際でずっと彼女を見ていた橘が、さっと河田に目配せした。

「……」

河田が小さくうなずいて、出入り口の警護を引き継ぐように動く。

橘は静かに、紗良のそばへ歩み寄った。

「紗良さん」

その声に、ようやく顔を上げた彼女の目は少しだけ潤んでいた。唇を噛むその仕草に、橘はさらに一歩、そっと距離を詰める。

「……立てますか」