お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

執務室の扉を開けると、橘が当たり前のように後ろからついてきた。
そして、そのまま何の躊躇もなく部屋に入ってくる。

紗良は無言で振り返り、意味ありげな視線を送った。

——なんで、入ってくるの?

その目がすべてを語っていたが、橘はその視線に気づきながらも、表情を変えなかった。

「ご気分がすぐれませんか?」

穏やかながらもどこか淡白な口調。
それが、紗良の胸を微かにざわつかせた。

(……食事を残したの、見てたんだ)

たぶん、それだけのことだ。
体調の不安を確認するのは、警護対象として当然のことなのだろう。

でも——

「すぐれなかったら、どうにかしてくれるの?」

そう返した自分の声には、意識せず棘が含まれていた。

橘は一瞬、返答の間をとったように見えた。
だが、それもほんの一拍。すぐに、いつもの無表情のまま答えた。

「体調が悪いのであれば、他の担当者に共有します」

その一言は、まるでマニュアルの一節のように冷静で、正確だった。

それを聞いた瞬間——
紗良は、胸の奥で何かがスッと冷めるのを感じた。

眩暈(めまい)のような、ひやりとした感覚。

(……そういうことじゃない)

彼の正しさが、ただただ遠く感じた。

橘はきっと、間違ってない。
でも、たとえば「大丈夫ですか」と聞いてほしかった。
たとえば、「何かあれば、言ってください」と言ってほしかった。

そんな当たり前の優しさすら、この人には求めちゃいけないのかもしれない。

無言のまま紗良はデスクの椅子を引き、ドサッと腰を落とした。
そして何も言わずにパソコンを立ち上げた。

橘はそれを確認するように一瞬だけ視線を送ったが、やはり何も言わず、静かに壁際に立った。

ふたりの間にはまた、重たい沈黙が落ちていった。