往診の日。紗良は午後三時すぎには帰宅し、スーツのままダイニングチェアに腰を下ろしていた。スーツのジャケットを脱ぎ、脚をぶらぶらと前後に揺らしながら、何となく落ち着かない気分で時計の針を眺める。
そんな様子を横目に見ていた橘が、口を開いた。
「紗良さん、お食事の件ですが──大臣から、健康に配慮したメニューの配食サービスを利用するように、との伝達がありました。費用については、お父様がご負担されるそうです」
(……元はと言えばお父さんのせいよ。でも、不摂生を続けてるのは私自身)
心の中で小さく息を吐きながら、紗良は静かに答えた。
「……わかりました」
すると橘は、音もなく紗良の前にしゃがみ込んだ。顔がぐっと近づいて、視線が絡まる。
「無理してませんか」
その低く穏やかな声には、どこか医者としての色がにじんでいた。
「個人的に──頑張りすぎなように思います。しっかりと休まれることも、仕事のうちですよ」
すべてを見透かすようなまなざしに、紗良は少しだけ戸惑いながらも目を逸らさずに言った。
「はい。これからは、定時で帰るようにします。……うちの会社、残業時間には厳しいので」
橘はわずかに頷き、「わかっていただければ、それで結構です」と、急に柔らかな表情になった。そして、何の躊躇もなく、紗良の頭にそっと手を置いて撫でた。
優しい手のひらの重みに、紗良は不意に気恥ずかしさを覚えた。目をそらし、唇を引き結ぶ。なのに橘は視線を逸らさずに、じっと紗良を見ていた。
(……なんでそんな目で見るの)
思わず心の中で呟いたとき、橘はふっと微笑み、すっと立ち上がる。そして耳に当てたインカムを押さえながら、玄関へと歩いていく。
──医師が、到着したのだろう。
そんな様子を横目に見ていた橘が、口を開いた。
「紗良さん、お食事の件ですが──大臣から、健康に配慮したメニューの配食サービスを利用するように、との伝達がありました。費用については、お父様がご負担されるそうです」
(……元はと言えばお父さんのせいよ。でも、不摂生を続けてるのは私自身)
心の中で小さく息を吐きながら、紗良は静かに答えた。
「……わかりました」
すると橘は、音もなく紗良の前にしゃがみ込んだ。顔がぐっと近づいて、視線が絡まる。
「無理してませんか」
その低く穏やかな声には、どこか医者としての色がにじんでいた。
「個人的に──頑張りすぎなように思います。しっかりと休まれることも、仕事のうちですよ」
すべてを見透かすようなまなざしに、紗良は少しだけ戸惑いながらも目を逸らさずに言った。
「はい。これからは、定時で帰るようにします。……うちの会社、残業時間には厳しいので」
橘はわずかに頷き、「わかっていただければ、それで結構です」と、急に柔らかな表情になった。そして、何の躊躇もなく、紗良の頭にそっと手を置いて撫でた。
優しい手のひらの重みに、紗良は不意に気恥ずかしさを覚えた。目をそらし、唇を引き結ぶ。なのに橘は視線を逸らさずに、じっと紗良を見ていた。
(……なんでそんな目で見るの)
思わず心の中で呟いたとき、橘はふっと微笑み、すっと立ち上がる。そして耳に当てたインカムを押さえながら、玄関へと歩いていく。
──医師が、到着したのだろう。



