お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

「じゃあ――橘さんが作ってよ」

紗良は、カレーを口に運びながら、ふいにそう言った。試すつもりだった。どうせ、そんなことは警護の仕事に含まれません、と一蹴されるに決まっている。そう思っていた。

ところが、橘はまったく表情を変えずに返してきた。

「食事を作ることが健康管理に当たるか、上に確認いたします」

「……は?」

思わず声が漏れた。冗談のつもりだった。橘にしては冗談でも言ったつもりかと見返してみても、その顔には一切の揺らぎがない。

(まじか)

思考が止まる。――もし本当に橘が食事を担当することになったら、冷蔵庫の空っぽ具合も、賞味期限切れのパック類も、深夜に菓子パンとエナジードリンクでしのぐ日々も、すべてバレてしまう。

(……それは、まずい)

内心で焦りながらも、表面は何食わぬ顔をしてカレーを平らげた。

「ごちそうさま」

空の皿を流しに運んでいると、橘がきちんと立った姿勢のまま一礼した。

「それでは、ここで交代となります」

静かにそう告げて、背筋を伸ばしたままドアへ向かう。紗良が何かを言う前に、音もなくドアを開け、ぴたりと閉めた。

静けさが戻った部屋に、残ったのはカレーの匂いと、背後にひんやりと残るプレッシャーだけだった。