お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

「株主総会の準備ですが、今のうちに予習を進めておいたほうがいいかと。お時間、少しいただけますか?」

「もちろん。よろしくお願いします」

紗良がそう言うと、高坂は自分の分の椅子を持ってきて、彼女の隣に腰を下ろした。

デスクの中央に資料を並べ、説明が始まる。

「まず、この議案が去年の総会で最も揉めたポイントです。ここ、投資会社の代表がかなり厳しく追及してきまして……」

高坂は、製本資料の中でいくつかの箇所に付箋を貼りながら、それぞれの意味や過去の質疑応答の流れを丁寧に説明していく。

「ここが、そのときの議事録抜粋です。質疑のタイミングも読めてくるかと思います」

紗良は一つひとつの言葉を逃さぬように、頭をフル回転させながら耳を傾ける。
時折、坂口から「この書類、目通していただけますか?」と声をかけられれば、視線をそちらに移し、確認後にまた高坂の説明へと戻る。

(……思っていた以上に複雑。でも、やるしかない)

ペンを走らせながら資料にメモを取り、目を凝らしてグラフや数値の意味を掴もうとする。高坂は途中、彼女の理解度に合わせて繰り返しや説明の角度を変えてくれた。

そうしているうちに、執務室の時計が午後6時を指していた。

坂口、宮崎、岡島の3人はきっちり定時でデスクを片付け、声をかけて帰っていく。

「一ノ瀬さん、今日は本当にありがとうございましたー!」
「無理なさらないでくださいね!」
「また明日!」

3人を笑顔で見送ったあと、紗良は再び資料に目を落とす。

「あともう少し進めておきたいですね。質疑応答の練習までは今日のうちに一度触れておきたいです」
高坂が穏やかにそう言った。

紗良は、軽く肩を回してからうなずいた。

「わかりました。残業申請、今出しますね」

パソコンで申請を済ませると、紗良は再び高坂の声に耳を傾ける。外が暗くなり始め、執務室には二人と、時折廊下の物音だけが静かに響いていた。