お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

定食を受け取った紗良は、迷わず窓際の一角、あまり人の座らない隅の席へ向かった。
できるだけ人目から逃れたかった。

社内でも顔を知られている立場。
そんな自分が、無言の男と二人で食事をしている光景を、好奇心で見られるのはごめんだった。

トレーを置き、椅子を引く。
そして、ふうっとひと息ついてから箸を手に取った。

焼き魚の小骨を外し、ひと口運ぶ。

……味がしない。

塩気も、出汁も、なにも感じない。

(あれ、味覚どうかした?)

思わず、自分の舌を疑うようにしてもう一口。
それでも、無味。まるで空気を噛んでいるようだった。

「……全然味わかんない」

小さくつぶやいて、紗良は肩を落とした。

それからふっと笑った。
自分でも可笑しかったのだ。

(明日からは、お弁当持ってきて、部屋で食べようかな……)

社食の騒がしさも、視線も、味のない昼食も、もう十分だった。

ご飯をもぐもぐと口に運びながら、ふと目線を斜め前に向けた。

橘がいた。

窓を背に立ち、黙々と視線だけを動かして、食堂内を一通り見回している。
警備の一環だと分かってはいても、その鋭い目つきはまるで“警戒する価値がある”と断じるようで、どこか落ち着かない。

そのとき、橘と目が合った。

(うわ)

慌てて視線を逸らした。
ご飯を咀嚼しながら、思わずため息が漏れる。

(なんかもう、全部めんどくさい)

皿の上にはまだ半分ほど定食が残っていたが、もう口に運ぶ気力もなかった。

箸を置き、席を立つ。

その瞬間、橘の視線がちらりとトレーに落ちたのがわかった。
しかし、彼は何も言わなかった。

咎めることも、気遣うこともない。
ただ、無言のまま。

(執務室に戻ります、って……一応、言うべきかな)

ほんの一瞬、頭をよぎったが、紗良はあえて口を開かなかった。

——その一言さえ、橘に気を許すようで。

今はまだ、言いたくなかった。