コンビニ袋を手に提げ、執務室のドアに手をかけたそのとき。
「一ノ瀬さん」
松浦が声をかけた。
「一度、橘と交代します」
紗良は、思わず目を細めて松浦に視線を向ける。無言のまま頷き、「わかりました」と小さく返す。
松浦は一礼し、静かにドアを閉めた。
次の瞬間、ノックもなく、あの整った声が後ろから響く。
「失礼いたします」
橘だった。
紗良はデスクに袋を置き、振り返って軽く会釈する。
「ご苦労さまです」
「お身体の具合、いかがですか。一度椅子に座られたほうがいいかと」
「……はい」
素直に促されるまま、椅子に腰かけた。
コンビニ袋の中身に一瞥をくれると、橘はわずかに表情を緩めることもなく、ただ静かに言った。
「……お召し上がりになるご予定はありますか?」
敬語。そのまっすぐで崩れない話し方が、逆に胸に刺さる。
「ちゃんと、食べてるっていう……記録用?」
橘は答えず、ただほんの少し視線を伏せるようにして立っていた。
紗良は袋の口を開け、おにぎりをひとつ取り出して、ゆっくりと包装を剥がす。
「食べます。ちゃんと。……安心してもらわないと、ですね」
その言葉に、橘が小さく頷いた。
「そうですね。今後は外出や会議出席の際にも、体調に応じた判断をこちらで行います。警護側でも、配慮体制を強化するよう通達が出ています。特に、日中は私ができる限り傍に控えるよう調整中です」
「……あ、そうなんですね」
心強い。そう思った瞬間と、同時に感じる、妙な胸のざわつき。
(それって、つまり……私のこと、もっと厄介な存在になったってことでもある)
でも、その不安を口にすることはなかった。
橘はそれ以上何も言わず、ただ彼女が手にしたおにぎりに視線を落としていた。
「一ノ瀬さん」
松浦が声をかけた。
「一度、橘と交代します」
紗良は、思わず目を細めて松浦に視線を向ける。無言のまま頷き、「わかりました」と小さく返す。
松浦は一礼し、静かにドアを閉めた。
次の瞬間、ノックもなく、あの整った声が後ろから響く。
「失礼いたします」
橘だった。
紗良はデスクに袋を置き、振り返って軽く会釈する。
「ご苦労さまです」
「お身体の具合、いかがですか。一度椅子に座られたほうがいいかと」
「……はい」
素直に促されるまま、椅子に腰かけた。
コンビニ袋の中身に一瞥をくれると、橘はわずかに表情を緩めることもなく、ただ静かに言った。
「……お召し上がりになるご予定はありますか?」
敬語。そのまっすぐで崩れない話し方が、逆に胸に刺さる。
「ちゃんと、食べてるっていう……記録用?」
橘は答えず、ただほんの少し視線を伏せるようにして立っていた。
紗良は袋の口を開け、おにぎりをひとつ取り出して、ゆっくりと包装を剥がす。
「食べます。ちゃんと。……安心してもらわないと、ですね」
その言葉に、橘が小さく頷いた。
「そうですね。今後は外出や会議出席の際にも、体調に応じた判断をこちらで行います。警護側でも、配慮体制を強化するよう通達が出ています。特に、日中は私ができる限り傍に控えるよう調整中です」
「……あ、そうなんですね」
心強い。そう思った瞬間と、同時に感じる、妙な胸のざわつき。
(それって、つまり……私のこと、もっと厄介な存在になったってことでもある)
でも、その不安を口にすることはなかった。
橘はそれ以上何も言わず、ただ彼女が手にしたおにぎりに視線を落としていた。



