お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

昼時を回り、オフィス全体が少しだけ緩んだ空気に包まれる。
紗良はキーボードから手を離し、ようやく時計を見上げた。

「……そろそろ、ランチ行こうか」

立ち上がり、扉へと向かう。引手に手をかけて開けると——

「っ、失礼します!」
勢いよく廊下を走ってきた岡島が、ちょうど彼女の目の前で立ち止まった。肩で息をしながら、眉を下げる。

「岡島さん? どうしたの?」

「竹下部長がお呼びです。至急、とのことでした……!」

「あー……」
紗良はわかりやすく肩を落とし、小さくため息をついた。

「ランチは、無理だなこりゃ……」

そして、執務室を振り返ると、作業を終えかけていた坂口・宮崎と、待機していた岡島に向かって笑顔を見せた。

「ごめん、私ちょっと行ってくるから、3人で先にランチ行ってきてくれる?」

「え? でも……一ノ瀬さん抜きで?」

「いいの、いいの。ほら——」

そう言って、紗良はデスクの引き出しから財布を取り出す。中から数千円分の綺麗に揃った商品券を取り出すと、坂口の手にすっと渡した。

「この商品券、オフィスのレストラン街で使えるやつ。期限が近くて、ちょうど良かったの。全部使っちゃっていいよ」

「えっ、ほんとに!?」

「ほんと。頑張ってくれたお礼。無理してでも美味しいもの食べて、午後もよろしくね」

坂口は商品券を手にして、まるで宝物を受け取ったかのように目を輝かせた。

「……一ノ瀬さんって、女神ですか?」

「いやいや、ただの腹ペコ人間です」
笑いながら、紗良は資料を片手に再びドアへ向かう。

「じゃ、行ってくるね。私の分まで、楽しんできて!」

「任されましたー!」

ドアが閉まると、坂口たちは顔を見合わせた。

「じゃあ、行きますか。女神のありがたきお布施、無駄にするわけにはいかないね」

「先輩、どこ行きます!? やっぱりあのパスタ屋っすか!?」

「オムライスもありだったな……いや、悩む……!」

廊下には、久々に明るい笑い声が弾んだ。