社食のカウンターに並ぶ列の中。
紗良は背筋をまっすぐに伸ばして立っていた。
そのすぐ隣には、無言のまま立つ橘。
あまりにも周囲から浮いていた。
ダークスーツに、無駄のない所作。
「ただ者じゃない」と一目でわかる雰囲気に、周囲の視線が自然と吸い寄せられていた。
(……やっぱり目立つ)
視線がこちらにも流れてくる。知り合いにでも見られていないかと、思わず背中が強張った。
——空気、空気。彼はただの“空気”。
そう言い聞かせながら、紗良はメニュー表の一番上に書かれた「日替わり定食」を指さした。
「日替わりでお願いします」
「はい、番号札をどうぞ。番号でお呼びしますので、お待ちくださいね〜」
トレーに番号札、水の入ったコップ、カトラリーを載せる。
できるだけ自然に振る舞っていたつもりだったが、手元は少しだけぎこちなくなっていた。
橘も、何も言わずに横でそれを見ていた。
注文を終え、空いたスペースで番号が呼ばれるのを待つ間——
沈黙。
それもただの沈黙ではない。
張り詰めたような、どこか居心地の悪い沈黙。
会話は一切ない。
橘は表情ひとつ変えず、眉間にわずかに皺を寄せたまま、静かに立ち尽くしていた。
(……しゃべれないなら、せめて柔らかい表情してくれればいいのに)
紗良は思わず心の中で文句を言いながら、トレーを少しだけ持ち上げ直した。
周囲の人々はちらちらと二人を見ていた。
社内でも目立つ顔の紗良が、険しい顔をした男と無言で並んでいる——その絵面はどう見ても異質だった。
気まずい。
本当に、気まずい。
だが、どうすることもできず、彼女はただ番号が呼ばれるのをじっと待つしかなかった。
(……空気。空気……)
繰り返すように心の中で唱えるたび、隣の“空気”はますます濃く感じられた。
紗良は背筋をまっすぐに伸ばして立っていた。
そのすぐ隣には、無言のまま立つ橘。
あまりにも周囲から浮いていた。
ダークスーツに、無駄のない所作。
「ただ者じゃない」と一目でわかる雰囲気に、周囲の視線が自然と吸い寄せられていた。
(……やっぱり目立つ)
視線がこちらにも流れてくる。知り合いにでも見られていないかと、思わず背中が強張った。
——空気、空気。彼はただの“空気”。
そう言い聞かせながら、紗良はメニュー表の一番上に書かれた「日替わり定食」を指さした。
「日替わりでお願いします」
「はい、番号札をどうぞ。番号でお呼びしますので、お待ちくださいね〜」
トレーに番号札、水の入ったコップ、カトラリーを載せる。
できるだけ自然に振る舞っていたつもりだったが、手元は少しだけぎこちなくなっていた。
橘も、何も言わずに横でそれを見ていた。
注文を終え、空いたスペースで番号が呼ばれるのを待つ間——
沈黙。
それもただの沈黙ではない。
張り詰めたような、どこか居心地の悪い沈黙。
会話は一切ない。
橘は表情ひとつ変えず、眉間にわずかに皺を寄せたまま、静かに立ち尽くしていた。
(……しゃべれないなら、せめて柔らかい表情してくれればいいのに)
紗良は思わず心の中で文句を言いながら、トレーを少しだけ持ち上げ直した。
周囲の人々はちらちらと二人を見ていた。
社内でも目立つ顔の紗良が、険しい顔をした男と無言で並んでいる——その絵面はどう見ても異質だった。
気まずい。
本当に、気まずい。
だが、どうすることもできず、彼女はただ番号が呼ばれるのをじっと待つしかなかった。
(……空気。空気……)
繰り返すように心の中で唱えるたび、隣の“空気”はますます濃く感じられた。



