お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

紗良がベッドに腰をかけると、看護師が手際よく準備を始めた。アルコール綿、試験管、注射器。見るだけで、紗良の肩がぴくりと震える。

「うぅ……やっぱり嫌です……」
ベッドの端でぎゅっと拳を握りしめ、情けないくらいの声を漏らす紗良。
年齢なんて関係なく、苦手なものは苦手なのだ。

その横に、椅子を引いて橘が腰を下ろした。
「大丈夫です。ここにいますから。終わったら、ちゃんと褒めますよ」

低く落ち着いた声でそう言うと、彼は自分の腕時計に目を落とし、「1分もかかりません」と静かに告げた。

看護師が紗良の腕を取り、消毒を始める。
その瞬間、紗良は目をぎゅっとつぶり、顔を橘の方にそむけた。
橘は自然な動作で、彼女の反対側の手をそっと取り、指先を軽く握った。

「ほら、終わったら、好きなものひとつだけ注文しましょうか。病院の食事にないやつでも、旗野さんに頼んで」

「……ほんとですか?」

「嘘つきません。針千本、飲みたくないですから」

小さく笑ったその瞬間――

「はい、終わりましたよ」

看護師の声に、紗良はぱちっと目を開いた。見ると、注射器にはすでに採血された血液が溜まっていた。

「……え? もう?」

橘は微笑んで言った。
「言ったでしょう? 一分もかからないって」

紗良は数秒呆然とし、そしてポツリと。
「……我ながら、ちょっと恥ずかしいです」

「恥ずかしがる必要、ありません。怖かったけど、ちゃんと受けられた。それが大事です」

そう言いながら、橘はそっと彼女の頭に手を置いた。
それは子ども扱いではなく、一人の人間としての「よく頑張ったね」という、誠実な称賛だった。

看護師は静かに退出し、病室は穏やかな空気に包まれていた。
橘の手の温かさが、紗良の胸に深く染み込んでいくようだった。