お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

静寂の中、橘がふうと小さく息を吐き、ゆっくりと紗良のベッドサイドへ歩み寄った。

「……一ノ瀬さん」

呼びかける声は、穏やかで低い。けれど、それは冗談や甘やかしではなく、彼女をちゃんと“大人”として尊重した上での真剣さがあった。

紗良は少しだけ顔を背けた。言い訳を探すように、「だって……」と口を開きかけるが、橘はその言葉を遮らず、続ける。

「私も注射は好きじゃありません。見てるとつい、どこに刺してるか気になってしまうんです。……医者の癖で」

そう言って、ふっと苦笑した。冗談のようでいて、それは彼なりの「あなたの気持ちはわかりますよ」というサインだった。

「でも……今の一ノ瀬さんの体調は、私たちが予測して対処しなければならない段階にきている。突然倒れるようなことがあったら、それこそ命の危険があるかもしれません」

紗良は唇をかみしめ、俯いた。

「あなたが怖いと思うのは、わかります。だけど、私に守らせてください」

その言葉に、紗良の肩が小さく揺れた。橘はさらに続けた。

「検査のとき、ずっとそばにいます。看護師よりも早く脈を取るし、万が一のときは、誰よりも早く処置できる。だから――大丈夫です」

その声には、一切のためらいも、見せかけもなかった。

紗良はゆっくりと顔を上げた。橘の真剣な眼差しとまっすぐ向き合い、そして、静かにうなずいた。

「……わかりました。でも……終わったら、褒めてください」

そう言って小さく笑った紗良に、橘もほんの少し口角を上げた。

「……もちろんです」

そのやり取りに、医師と旗野がようやく息をついたように動き出す。

橘の“信頼の言葉”が、また一つ、紗良の中に深く刻まれていった。