お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

数分もしないうちに、ノックの音とともに病室の扉が開いた。

「失礼します、一ノ瀬さん、大丈夫ですか?」

入ってきたのは、夜勤の看護師だった。白衣の胸元には名前入りのネームプレートが光っている。
橘は立ち上がって簡潔に頭を下げると、すぐに一歩下がり、看護師の作業を妨げないよう静かに見守った。

「立ちくらみでふらついて、床に倒れかけました。すぐに戻してあります。ぶつけたのは小さなスタンドライトだけで、外傷はなさそうです」

「ありがとうございます。では、こちらで確認しますね」

看護師は紗良の脈を取り、額に手を当て、簡易の血圧計を用意した。
その間も橘は、どこか責任を感じているような面持ちで黙って紗良の様子を見ている。

「……ちょっと血圧が下がってますね。昨日よりもお疲れが出たのかもしれません。水分と栄養をしっかり取って、今日は無理なさらないようにしてくださいね」

「……はい、すみません」

紗良は申し訳なさそうに答えるが、看護師はにこやかに笑った。

「謝らなくて大丈夫ですよ。誰にでもありますから。では、お水はこちらに置いておきますね」

そう言って、テーブルの上に新しいペットボトルを置くと、看護師は橘に軽く会釈し、静かに退室していった。

病室が再び静けさに包まれる。
橘はそっとベッド脇の椅子に腰を下ろし、紗良の顔をじっと見つめた。

「……本当に、大丈夫ですか?」

「……うん。橘さんがすぐ来てくれてよかった。安心しました」

言葉にしてから、紗良は少し頬を赤らめた。
それを見て、橘もようやく少し肩の力を抜いたように微笑む。

「もう、勝手に立ち上がったりしないでください。何かあったら、呼んでください。私はすぐそばにいますから」

その言葉は、責任だけではない、深い感情が滲んでいた。
紗良はまっすぐ橘を見つめ、小さく頷いた。

「……ありがとう、橘さん」

彼女のその一言が、橘の胸の奥のどこかを、静かにほどいた。