お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

小指が重なったまま、紗良はふと視線を下げた。
絡めた指に、そっともう一方の手を添えるようにして、橘の手を優しく包む。

「……きっと、橘さんは今まで、いろんな人を守ってきたんですよね。でも、その分……ご自身のこと、誰かに守られることなんて、あんまりなかったんじゃないかなって思うんです」

ぽつりと漏らされた紗良の言葉に、橘の指先がわずかに震えた。
何も言わないまま、彼は紗良の目を静かに見つめていた。

「私……今、橘さんが話してくれたこと、全部、心に残ってます。総理からの言葉も、橘さんの悔しさも。たぶん私が、一ノ瀬の娘じゃなかったら、橘さんはここまで話してくれなかったんじゃないかなって思います」

まるで、自分に言い聞かせるように紗良は話し続けた。
声は静かだったが、その奥には確かな強さがあった。

「でも……それでも私、今は一ノ瀬の娘でよかったって思ってます。だって、そうじゃなければ――橘さんのそばにいられなかったから」

言い終わると、紗良はふっと微笑んだ。

「私は、橘さんの“警護対象者”になれて、よかったです」

それは、守られることに対する感謝だけじゃなかった。
彼の過去に触れ、その孤独と、覚悟の重みを知った今だからこそ――
その全てを含めて「そばにいたい」と思えた。

橘は、何も言わなかった。
けれど、その表情が少しずつ緩み、やがて深く息を吐いた。

「……ありがとうございます。そんなふうに思ってもらえるなんて、思ってもみませんでした」

まるで心の奥の氷が、ゆっくりと溶けていくような声音だった。
長く閉ざされていた何かが、紗良の言葉で確かに開いた――そんな気がした。

外ではお昼過ぎから降っていた雨が止み、雲の隙間から春の光がわずかに差し込んでいた。
その静かな光の中で、二人は、指をつないだまま、穏やかに時を過ごしていた。