お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

時計の針が十二時を指す頃、メールの確認を終えた紗良は、ふうと息をついてパソコンをシャットダウンした。

ランチタイム。今日の社食は確か、週替わりの和定食だったはず。
味噌汁と焼き魚、温かいご飯。——ちょっと、楽しみかも。

立ち上がり、カーディガンを羽織りながら扉へ向かう。

ドアノブに手をかけて開けると、すぐ外に橘と河田が並んで立っていた。
二人は小声で何かを話していて、どうやら交代の最中らしい。

(……あ、橘さんに戻るのか)

そう思った瞬間、胸の内にわずかな落胆が広がった。

——河田さんの方が、話しやすいのにな。

ただそれだけのことなのに、思ったよりも“がっかり”が大きい自分に、少しだけ驚く。

二人ともすぐにこちらに気づき、会話を止めた。

河田がいつもの調子でにこりと笑い、「交代となります」と一礼する。

「……お疲れさまでした」

思わず声が出た。

「はい、ありがとうございます。また夜に」

河田は手を軽く上げて、廊下の向こうへと姿を消した。

そして、そこに残ったのは、いつもと変わらない橘。
変わらない無表情、変わらない姿勢。変わらない、沈黙。

何を話すわけでもなく、二人はそのまま並んでエレベーターの方へ歩き出した。

(……昼休憩とか、トイレとか、やっぱりあるんだな。交代、意外と多いし)

ふと、そんなくだらないことを考えてしまう自分が可笑しかった。

鉄壁のように思っていたSPたちにも、そういう人間らしい側面がある——
でも、だからこそ。
余計に、橘の“変わらなさ”が浮き彫りになる。

(ずっと、何を考えてるんだろう)

ほんの少しだけ、興味が芽生えたことに、気づかないふりをした。