白雪の姫は夜を仰ぐ

瑞花さんと六花が戻ってきて
しばらくすると、

メイドさんと一緒に、
花園会長―― 花園 里華 様と、
高校生くらいの女の子が入ってきた。



「 お待たせいたしました、白雪様 」

「 いえ、
いつもお気遣いありがとうございます 」



会食の前に
ママとふたりで話せるのも、

六花と瑞花さんが
別室でふたりになれるのも、

全ては花園会長の
お気遣いあってこそだ。



10歳でパールに移ってからの私が

白雪の Snow Castle に
足を踏み入れるのは

パーティーの日の会場と控室くらい。



ママがパールに来てくれることもあるけれど、
花園財閥のような
分家で会えることの方が多い。



「 白雪様、こちら娘の夢奏 ( ゆめか ) です 」



花園会長が、
女の子の肩に触れながら微笑む。



白いブラウスにピンクのベストとスカート、
緩く巻かれた肩までのツインテール。

私と同じくらいの年に見える。



「 夢奏と申します。

昨年まで病気のため入院しておりまして、
ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。

白雪会長とお嬢様に
お会いできて大変光栄です 」



「 夢奏さん、よろしくね。
ご回復、私も嬉しいわ。
真珠と同じくらいと伺っているけれど…… 」

「 16歳でございます。真珠様の1つ下です 」



1つ下と聞くと、
とても大人っぽく見える。

入院しているご令嬢がいるのは
聞いていたけれど、

話し方が凛としていて、
いかにもお嬢様だ。



「 夢奏様、はじめまして。
白雪 真珠でございます。
ご退院おめでとうございます 」



ひとまず表面的な挨拶を返すと、
夢奏様は、
私の方を向き直してぱっと明るく笑った。



ちょうどその時、扉が開いて、
色鮮やかなお料理が運ばれてくる。

専属のシェフを抱えている
花園財閥での会食は、

他のどのフランス料理よりも
おいしくて、美しい。



コース料理とともに、会談も進む。

ママも花園会長も、
にこやかに微笑んでいるけれど、

その話し方や内容はいつも凛としている。



今日の目的は、

花園財閥のご令嬢、
夢奏様からのご挨拶と、

夢奏嬢のお披露目についての話し合いみたい。



近々に夢奏嬢の
お披露目パーティーが行われ、

そのサポートを、
白雪がすることになった。



そして――



「 真珠が、ご挨拶させていただきますわ 」

「 わ、私ですか……?」



唐突に回ってきた " ご挨拶 " に、
背中を冷や汗が伝う。



つまりは、

花園財閥のパーティーで、
ステージに立って何分か喋る、

ということだ。



白雪財閥の名を背負った挨拶は、
会長であるママの得意分野。だけれど。



「 花園様ご主催のパーティーですし、
今回は夢奏様のお披露目も兼ねているのだから。
年も近いし、真珠が適役だと思うわ 」



笑顔でそう押されれば、
頷かざるを得ない。



「 かしこまりました 」

「 ありがとうございます、真珠様 」

「 真珠様にお話しいただけるなんて
大変光栄です 」



これも、" 白雪のご令嬢 " の務め。
夢奏様は、目をキラキラと輝かせている。



挨拶が私だということが決まると、

あとはまたパーティーの詳しい話になったり
それぞれの近況報告になったりしながら、

会談は終わりに向けて進んでいく。