白雪の姫は夜を仰ぐ

六花の運転する黒い車は、

広い白雪財閥を出て、
車の少ない道を進んでいく。

前と後ろにつく2台の黒い車は、護衛さんたち。



20分くらい外を眺めていると、
車はゆっくりと曲がって、花園邸の門をくぐる。

花壇にたくさんの花が咲く真ん中の道に
たくさんのメイドさんが並んでいる。



ここが、花園財閥──


白雪財閥の
分家から始まった財閥の1つ。

今では日本を率いる企業グループに
名を連ねている。



「 白雪真珠様、お待ちしておりました。
白雪会長もいらしております。
こちらへどうぞ 」

「 ありがとうございます 」



ママは先に着いて、中に入っているみたい。
瑞花さんもきっと一緒だ。



花園財閥のメイドさんに案内されながら
豪華な建物の中を歩く。



英国調の白い壁には
金色のラインが等間隔に入っていて、

至るところに
豪華なお花が飾ってある。



造花やドライフラワーではない、
生花というところに

" 花園 " 財閥の
プライドを感じる回廊。



「 こちらでございます。
……失礼致します。
ご令嬢様がお越しになりました 」

「 ありがとうございます 」



ママの隣に座って、
ドレスのスカートを整える。

メイドさんがそっとドアを閉めると、
ママは私の顔を見てにこやかに笑った。



「 真珠、早く来れたのね 」

「 真珠様、おはようございます 」



ママと一緒にいるのは、
Snow Castle に仕えるメイドの
瑞花 ( ずいか ) さん。



ママは出かけるとき、
第一執事の琥珀さんよりも、

メイドの瑞花さんを
連れていることが多い。



瑞花さんは
ママと同じ40歳くらいのメイドさんで、

私が小さい時は " 六花 " さんとして
ママと私の側にいてくれたメイドさん。

私にとっては
第二のお母さんみたいな感じだ。



「 マ……お母さまとお話ししたくて 」

「 ちょうどよかった。私もよ。
……瑞花、六花、少し席を外していただける?」

「 かしこまりました 」

「 ありがとうございます 」



ママは私と話すとき、
少しの間、
瑞花さんと六花をふたりきりにする。



もと " 六花 " である瑞花さんと六花は、
血のつながった親子だ。



私たち親子のように、
ふたりにもきっと、

ふたりきりで話したい時間がある――
ママも、そう思っているのかもしれない。



ママとの話は、
他愛のないことがほとんど。

英語でこんな論文を読んでいます、とか
お父さまの最近のこと、とか。



お父さまとは
ほとんど会うことがない。

時々開催される白雪のパーティーで
顔を合わせる程度の親子関係。