白雪の姫は夜を仰ぐ

朝食を食べ終わって、

天花が用意してくれた
オールインワンに着替える。

高級感のあるシルエットだけど、
装飾はほとんどないシンプルなデザイン。

もちろん、カラーはホワイト。



白雪財閥は、
様々なものが白い。



中でも私は
" 真珠 " の名をもらったばかりに、

服から家具まで
目につくものはほとんどが白くて

良く言えば統一感があるけれど、
とても眩しい。



ママ──白雪 瑠璃 は
" 瑠璃 " の名に合わせて
白と瑠璃色の世界で暮らしている。



私と六花たちが住んでいるのは
Pearl Castle ( パール キャッスル )

通称 パール──といっても
呼ぶのは白雪の人間だけ。



ママとパパが住む
Snow Castle ( スノー キャッスル ) は

一番大きくて、
20人を超える執事やメイドがいる。



同じ敷地内で、
毎週会っているけれど、

ママと私の生活は、
きっちり分けられている。



真珠を守るため──
そう、ママが言っていた。



「 ご会食までお時間がありますが、
何かされたいことはございますか?」



じっと立ち止まっていた私を
心配するように、

六花がしゃがみ込んで
私の顔を見上げる。



「 バイオリンも練習したいけど……
その前に、英語と数学を復習しないと 」

「 かしこまりました。ご用意いたしますね 」



六花が天花に耳打ちすると、

天花が教科書とノートを
本棚から出して

朝食が綺麗に片付いたテーブルに
並べてくれる。



──英語と数学。



高校に通っていない私のために、
天花が毎週、
勉強を教えてくれている。



白雪のお嬢様は、学校に行かない。



教室に座ってみんなで受ける授業、
友達と食べるお弁当やお菓子、

" 青春 " みたいなものは、全部、
お話の中の世界。



「 Today, we will review a paper about economics that we read the other day. 」

「 Got it 」



今日の英語は、
経済の論文のおさらい。


昔の偉い誰かが語った
" 経済とはなんたるか " を
英語で読んで、内容をさらっとまとめる。



経済にあんまり興味はないんだけど、
" いずれ白雪の舵を握るのよ " って、
ママは言う。



だから、勉強には困らない。



白雪財閥が持っている " 白雪学園 " に
一応、名前だけ在籍はしていて、

大学も相当なところに
在籍はするみたいだから

" 学歴がない " なんてことにも
ならないみたいだし、



何より、白雪の令嬢に必要な
" 安全 " は、これでもかというくらい完璧。



だけど──



「 ――さすが真珠様、よくできています。
紅茶を淹れますので、少し休憩なさいますか?」

「 大丈夫。数学をお願いしてもいい?」

「 かしこまりました 」



本当は、高校に行ったり、
友達と他愛もない話をしてみたり、

──外の世界に、出てみたい。



数学の復習がひと通り終わると、会食の準備。



天花と風花に
服とアクセサリーを用意してもらって、

六花にヘアメイクをしてもらって、
花園財閥の最近の情報を聞かせてもらって、



つまり私は、
ただ座って六花の話を聞いてるだけ。

花園会長との会食を
頭の中でイメージしながら、
どんな話をしたらいいか考える。



「 真珠様。
このような感じでいかがでしょうか?」



ヘアメイクを終えた六花が、
美容師さんのように
鏡を後ろに持ちながら微笑む。



「 ありがとう 」



肩までの髪をゆるく巻いて、
花のバレッタを乗せた
大人っぽいハーフアップ。



もう10年も私の側にいてくれている
六花はいつも

" 白雪のお嬢様 " にぴったりな、

大人っぽくて
おしゃれなヘアメイクをしてくれる。



「 瑠璃様、ご出発なされたそうです 」

「 あ、ほんと。なら急がないと 」



同じ敷地に住んでいるけれど、
ママとは会食の場所で直接会う。



会食の時間はまだ少しあとだけど、

ママと一緒の時、
ママはいつも少し早く着いて、

私との時間をとってくれる。



「 花園様へのお手土産、お持ちいたしますね 」

「 ありがとう。風花、行ってきます 」

「「 いってらっしゃいませ 」」



会食の付き添いは、六花だけ。

天花と風花は
パールで休憩……していてほしいけど、

いつも掃除や洗濯をして
待っていてくれている。