白雪の姫は夜を仰ぐ

白雪財閥 Pearl Castle ──



「 おはようございます、真珠様 」



私──白雪 真珠 ( しらゆき まじゅ ) の朝は、
白くて眩い。



白い天井に白い壁、

レースカーテンのかかった
白枠の窓から見える──

白くて、眩しい朝。



「 おはよう、六花 ( りっか ) 」



白い執事服をきちっと着こなし、

いつもの明るく
やわらかい笑顔と

落ち着いたトーンで
声をかけてくれるのは

六花──私に仕えてくれている第一執事。



短く切り揃った黒髪に
執事服を着ているけれど

彼女は私の7個か8個上くらいの女性で、

私が小さい時から
ずっと側にいてくれている。



メイドではなくて執事服なのは、
スーツの方が動きやすいからなんだとか。



「 ご朝食の準備ができております 」

「 ありがとう 」



六花が手を広げる方向には、

白いクロスがまっすぐに敷かれた
テーブルの上に並ぶ

焼きたてのパンと色とりどりのお料理。



テーブルの前では、
同じく私に仕えてくれているメイドの

天花 ( てんか ) が
ハーブティーを淹れている。



「 おはようございます、真珠様 」

「 おはよう、天花 」

「 本日はローズヒップをご用意しております 」

「 ありがとう 」



白くて眩しくて、やさしい朝。

これが、私──
白雪財閥 第一令嬢 白雪 真珠の

いつも通りの朝だ。



白雪財閥とは、
日本でトップを誇る企業グループ。



大昔に、糸を売るお店から始まり、

今は服飾品や
革製品の製造や輸出はもちろん

" Shirayuki " というファッションブランドや
宝石ブランドもメインで展開している。



広く言えば、
ファッションとアクセサリーの企業。



「 真珠様。
本日のご予定を確認してもよろしいですか?」



ハーブティーを飲み終わって、
パンをちぎりながら食べていると、

タブレットを抱えた六花が
やわらかく微笑む。



「 うん。お願い 」



「 かしこまりました。
本日は、お昼に花園様とのご会食がございます。

会長──瑠璃様もご同席の予定で、
11時、パールの前にお車をご用意いたします。

お召し物は
風花に用意させてよろしいでしょうか?」



「 ええ 」



短く返事をして、
ハーブティーを一口飲む。



風花 ( ふうか ) も、
仕えてくれているメイドの1人。

私の身の回りのことは
六花、天花、風花の3人がしてくれている。



六花は
私が5歳くらいの頃から " 六花 " だった。



天花と風花は、
それぞれ一度ずつ、

" 天花 " は
私が10歳の時に天花になって、

風花は半年前から
" 風花 " をしてくれている。



「 そして15時から、
Shirayuki に関する取材がございます。

取材は主に瑠璃様がお受けになりますが、
真珠様もご同席をとのことです 」



六花・天花 ( てんげ )・風花 ( かざはな )

雪の名を持つ3人が私の側近で、
六花が第一執事。

これも、白雪財閥での取り決め。



本当の名前は──



「 ええ、わかった。
取材の衣装は Shirayuki の新作を着るから、
アクセサリーを合わせておいてもらえる?」

「 かしこまりました 」



──知らない。