白雪の姫は夜を仰ぐ

振り返ると、
金髪の2人組がにやにやと笑っている。

手をゆっくりおろそうとしても、
離してくれない。



「 ……離していただいてもいいですか? 」

「 なあに?男と待ち合わせ?
来るまでの間でいいからさ、俺らと遊ぼうよ 」

「 どなたともお約束していません 」

「 フッ、なら余計イイじゃん 」



話の通じない2人組。
手を振り解こうとすると、肩を掴まれた。



「 やめて!」

「 うるせーな 」



男2人の力になんて、敵わない。
踏ん張る足が、ずるずると流されていく。



「 離して!」



勢いよく振り払った腕が、
男性の手から解放される。

その瞬間、
後ろから別の手に腕を掴まれた。



でも、今度は冷たくない。
力加減を抑えているような掴み方。



「 ……離せよ 」

「 あ?お取り込み中なのわかるだろ 」

「 どう見ても犯罪の一歩手前だけど 」



掴まれた片方の手を見上げると、

茶髪と、藍色の髪をした2人の男性が
鋭い目つきで、

金髪2人を見下ろしている。背が高い。



その時、
片方の金髪が息を呑むのが聞こえた。



金髪はもう片方の耳元に口を近づけると、
怯えたような顔で
「 こいつら " 牙 " か 」と呟いた。



「 分かってんなら離せよ 」



茶髪の方の男性が、ふっと笑う。



「 うるせーよ! 」

「 いい子ぶってんじゃねーよ、悪党が!」



金髪の2人組は、そう言いながらも、
慌てたようにどこかへ走って消えていく。



「 ……あ、あの 」



お礼を言わなくちゃ、
と思って顔を上げても、

足がすくんで、
思ったように言葉も出てこない。



「 大丈夫か?ケガしてない?」

「 ケガは、大丈夫です…… 」

「 どこから来た? 」

「 それは…… 」



茶髪と藍色の髪の2人が
交互に聞いてくる。

" 白雪から "
なんて言えるわけがない。



それらしい答えを探していると、
2人の後ろから
もうひとりの男の人が歩いてきた。



黒い髪、黒い服、切れ長の目……



「 ……暖、さん? 」

「 暖の知り合い? 」



藍色の髪の男性は、
驚いたように私と暖さんを見る。

暖さんはその視界に私を捉えると、
目を見開いた。



「 ……来たか 」

「 暖が呼んだの?
クソみたいな輩に攫われかけてたけど?」



茶髪の男性が、
意を含んだトーンで詰める。

暖さんはそれを全く気にしてない素振りで、
私の頭の上に暖かい手を乗せた。



「 苦しくなった? 」



そう言われて、
フラワーガーデンの一場面を思い出す。



――苦しくないか?



確か、帰り際に
そう言われた気がした。

「 大丈夫 」と答えた
数日前の自分を思い出す。



白雪令嬢の暮らしは、
確かに特殊。

けれど、
苦しいと思ったことはない。



「 夜が見たくなって 」



暖さんの顔が浮かんで、飛び出してきた。
それは、今は発してはいけない言葉な気がする。



「 ……なら、見せてやる 」

「 え? 」



暖さんはそう言って、
彼の歩いてきた方向に手を向ける。

そこには、
光沢のある3台のバイクが停まっていた。



茶髪と藍色の髪の男性は
顔を見合わせて、

停まっているうちの
2台のバイクにそれぞれ乗る。



暖さんは私の手を引くと、
真ん中に停まっているバイクの
後方席に触れた。



「 帰る時間は? 」

「 えっと……2時、くらい 」

「 なら、1時間ってところだな 」



暖さんはやわらかく笑って
私を持ち上げると、

席に下ろして
黒いパーカーを羽織らせてくれた。

大きめのヘルメットが
頭に乗せられる。



「 しっかり掴んどけよ 」

「 うん 」



暖さんが乗り込むと、
バイクが少し沈んだ。

そのまま大きな音を立てて、
エンジンがかかる。



「 ……夢みたい 」



小さく呟いた言葉は、
低いエンジン音に吸い込まれていった。