白雪の姫は夜を仰ぐ

もう一度目を開けると、
さっきよりも明かりが落ちていた。

六花の寝顔を、
オレンジ色の間接照明が照らす。



音を立てないように、そーっと起き上がる。

時計は、
12時20分を指していた。

20分多く寝てしまったけれど、予定通りだ。



静かに、
物音をさせないように気をつけながら、
いつものオールインワンに着替える。



ヘアメイクは諦めて、
スマホをポケットに忍ばせると、ドアを開ける。

後ろを振り返れば、
六花はまだ寝ている。



……絶対に、気づかれてはいけない。



メイドの首など、
白雪にとっては数あるうちの一つ。



六花を、悲しませてはいけない。



けれど。



意を決して、
寝室から足を踏み出す。

天花と風花もきっと寝ているし、
2人の寝室から外の物音は聞こえないはず。



そっと階段を降りて、
エントランスを見る。

でもここを開けてしまうと、
絶対に音が立つ。



ふと思いついて、
ロビーから庭へ出る出窓の鍵を開けた。

もう一度
後ろを振り返っても、誰もいない。



持ってきた靴に履き替えて、庭へ降りる。

目隠しとして用意してある
黒い布に身を包むと、

メイド用の裏とびらから、外へ踏み出した。



暖さんの写真にあったのは、

赤や青、白、ピンク、紫の
きらきらとした光。

思いつくのは、繁華街だ。



もちろん、
一度だって入ったことはない。

でも入り口らしいところなら、
六花の運転してくれる車から
見たことがある。



なんとなく、

感覚で方向を決めて走っていると、
赤や黄色のライトが見えた。

人の姿も見える。



……あかるい。



ライトの中に足を進めると、
そこは色とりどりの光に包まれた、
明るい世界。



「 ねえ、おねーちゃん 」



カラフルな服を着た人たちが、
楽しそうに笑い合ったりしながら歩いている。



「 おねえちゃーん、聞いてんの? 」



腕をぐっと掴まれて、
後ろにふらつく。