白雪の姫は夜を仰ぐ

パールに戻って、夕食をとる。



昨日のテリーヌが
おいしかったことを伝えると、

六花は「 まだ少しだけございますよ 」と

テリーヌの盛り付けられた
お皿を加えてくれた。



野菜の入った鮮やかなテリーヌに、
イメージの中で
杉鹿様の顔が重なる。



婚約。



白雪財閥 第一令嬢 としては、
" 正しい " 答えを出せたはず……だけど。

結婚どころか、
私には恋愛の経験すらない。



テリーヌの食べ終わったお皿に、
ふと、切れ長の目の、整った顔が浮かんだ。



……暖さん。



見せてくれた、
きれいな夜の景色。



一度思い浮かべると、衝動が胸を駆け巡る。
外に、夜の世界に、行ってみたい。



けれど、私にはできない。



パールの警備は、手厚い。
もし、夜に外に出られるとしたら……



「 ……12時から2時 」

「 どうされましたか? 」

「 いいえ。このお魚も、とってもおいしいわ 」

「 それは何よりでございます。
また白身魚が入りましたら、
お作りいたしますね 」

「 ありがとう 」



12時から2時の間は、
交代時間ということもあり、
警備が少しだけ薄れる。

全くの部外者にとっては変わらないけれど、
外に出るとしたらその時間だ。



パールから外へのルートを思い浮かべながら、
お風呂と寝る支度を済ませる。



そして――



「 おやすみなさいませ、真珠様 」

「 おやすみ、六花 」



六花に笑みを返し、
ベッドに入る。

目を瞑ると、
体がやわらかい毛布に溶けていく。