白雪の姫は夜を仰ぐ

――翌日。



パールに来ていた外商の方が帰ると、
昼食の後は、
Shirayuki の新作を確認する。



" 白雪 " のブランディングから

白を基調とした服や
アイテムが多いけれど、

普段着ている服と比べると、カラーは多い。



白いワンピースに
ブルーのラインが入ったものや、

その逆に、ブルーのワンピースに
白いラインのもの。



赤や青、緑や黒のアイテムに
ポイントカラーとして
白を入れたものもある。



「 これ…… 」



目に留まったのは、
襟のついたワインレッドのワンピース。

襟や袖を縁取るように、
白のラインが入っている。



同じデザインの
ブルーのものも可愛いけれど。
ワインレッドは、夢奏嬢に似合いそう。



「 六花 」

「 はい。どういたしましたか?」

「 このワインレッドの
ワンピースを注文できる?」

「 しかし…… 」



六花が眉を細める。

ワインレッド。

白雪の令嬢が身につける色ではない。



「 夢奏嬢に贈りたいの 」

「 失礼致しました。
こちらのワインレッドでよろしいでしょうか?」

「 うん、お願い 」

「 かしこまりました 」



六花は柔らかく微笑んで、
タブレットを操作する。

この前の夢奏嬢の笑顔を思い出して、
そのイメージに
ワインレッドのワンピースを重ねる。



「 注文いたしました。
パーティーの3日前には届くよう
手配いたします 」

「 よかった。ありがとう 」



パーティーを意識して
注文してくれるところに、
六花らしい気遣いを感じる。



白雪がサポートをする今回のパーティーは、
直前にも会食が行われるはず。

その時に、お渡しできるのが理想的だ。



花園家のパーティーに思いを馳せながら、
タブレットに表示される
新作のページを捲る。

目を通すだけの仕事だけれど、
この " 判断 " という仕事が私の大きな役目。



ひと通り確認が済むと、
時計の針は14時40分を指していた。



「 ……そろそろ、
Snow castle に向かわないと 」

「 かしこまりました。
お召し物やヘアアレンジは
どういたしましょう?」



「 ヘアメイクはこのままで大丈夫。
……とっても気に入ったからまたしてくれる?」

「 もちろんでございます 」



「 服は…… もう少し袖のあるものに変えるわ 」

「 かしこまりました。ご用意いたします 」



六花が天花に耳打ちすると、
天花はにこっと笑って
服を持ってきてくれた。



似ているデザインの
オールインワンだけれど、

Snow castle に行くなら、
袖は長めがいいはず。



同じ敷地にあって、
ママとお父さまが暮らしている場所、だけれど。

Snow castle には、
目に見えない敷居がある。



「 六花もついてきてくれるのよね?」

「 もちろんでございます 」

「 心強いわ 」



支度を済ませて、パールを出る。

同じ敷地内といえど
少し離れた Snow castle には

車で向かうのが一番早い。



六花の運転する車が
棟の前に停まると、

銀花さん――
ママに仕えているメイドさんが、

何人かのメイドさんと一緒に
待ってくれていた。



「 真珠様。お元気そうで何よりでございます 」

「 銀花さん、お迎えありがとう 」



銀花さんは、
白雪財閥で一番年上のメイドさん。

確か60歳は過ぎていたはずだけれど、
まだまだ全然元気で、
仕事にも抜かりがないそう。



瑞花さんが " 六花 " の頃の
" 瑞花 " さんだったみたいだけれど、
銀花さんであるイメージの方が強い。



「 ……真珠様。お待たせいたしました 」

「 ありがとう 」



車を側に停めて戻ってきた六花が、
私と銀花さんに深く一礼する。



「 行きましょう。
瑠璃様と史絃様がお待ちです 」

「 お父さまも? 」



ほとんど会うことのない
お父さまの名前に、
ぴりっとした緊張感が増す。

にこやかに頷いて、
回廊を進んでいく銀花さんの後を歩く。



銀花さんは、いつもの――
パーティー会場や控え室には向かわず、

エレベーターに乗ると、
3階のキーを押した。



Snow castle 3階。

客間のような場所として
作られたスペースのはずだ。



「 ……こちらでございます 」



二重になっている外側の扉を、
銀花さんがゆっくりと開けてくれた。

現れた内側の扉に触れようとした六花を、
銀花さんがそっと止める。



「 六花さんはここでお待ちください 」

「 かしこまりました 」



扉の先には、ママとお父さま。
ここからはひとり……。