5月の何でもない月曜日でも、
いつもと変わらない時間が流れていく。

ただひとつ、
休日と違うのは――



「 真珠様、行ってまいります 」

「 行ってらっしゃい 」



平日の朝は、
風花が白雪学園に行く。



六花と天花は20代だけど、風花は高校生。

週に3日か4日、
大きな予定がない日に、

パールから高校に通って、パールに帰ってくる。



六花、天花、風花。
そして " 瑞花 " と " 銀花 " 、" 寒花 " ――



呼び名のない役割も含めて、
白雪に仕えるメイドの多くは

子どもの頃に実家を出て
白雪に入り、白雪で育つ。



お給料と、生活や学費が出る代わりに、

特別な事情がなければ
家に帰ることはできない。

他にも、複雑な取り決めがたくさんある。



「 こちら、お下げいたしますね 」

「 ありがとう。
ハーブティーだけ、おかわりを頂ける?」

「 かしこまりました 」



天花が朝食を下げてくれている間に、
白のオールインワンに着替える。私の部屋着。



着替えながら、ふと思い立って、

アクセサリーボックスの
ネックレスを手に取った。

大きな鏡を見ながら、首の後ろに手を回す。



雪の結晶が
散りばめられたようなデザインの
シンプルなシルバーネックレス。



オールインワンもネックレスも

シンプルだけど
高級感のあるデザインが揃う。

どれも、私の―― " 白雪 真珠 " の好みのもの。



ヘアブラシとアイロンを持って
ドレッサースペースに入ってきた六花が、
私の胸元を見て目を見開く。



「 ネックレス、とても素敵です。
……今日はパールでお過ごしになるようですし、
少し華やかなアレンジはいかがでしょうか?」



「 嬉しい。お願いできる?」

「 ええ、もちろんです 」



六花は一度ドレッサースペースを出ると、
細めのアイロンと、
ヘアピンを持って戻ってきた。



手際よくブラシやアイロンが通され、
華やかなローポニーが完成する。

いつもと違うアレンジでも
迷いのない六花は、



「 ……天才ね 」

「 ありがとうございます 」



そう微笑みながら、
左右のバランスを整えてくれる。

いつもの " お嬢様らしさ " とは少し異なる、
華やかで女の子らしいヘアスタイル。



新しい髪型に、背筋が伸びる。
いつも通りの数式が、
凛としたものに見える。



「 今日も、とても調子がいいですね 」



数式の展開をスムーズに仕上げると、

天花が顔を綻ばせながら、
テキストに触れた。

英語も、なんだかスムーズに訳せた気がする。



「 一度、休憩にいたしましょうか 」

「 そうね。お腹も空いた 」



用意してもらった昼食を食べて、

勉強の後は
バイオリンの練習をしていると、

窓の外の日はゆっくりと沈んでいく。