自動販売機のボタンを押す。コーヒー缶がガゴッと音を立てて転がる。
取り出し口から缶を持ち上げる。指先にじんわりと温かさが伝わった。
しばらくそのまま立ち尽くす。
でも、ここで立っていても何も変わらない。俺は小さく息を吐いて、廊下へと足を向けた。
想良の楽屋は、廊下の突き当たりだ。
撮影スタジオ特有の慌ただしい空気が漂っている。
スタッフが行き交い、機材を運ぶ音や誰かの指示が飛び交っていた。
その中を、コーヒー缶を握ったまま歩く。
扉の前まで来て、足を止める。
右手を上げて、扉を叩く。
軽い音が鳴ると、中から「はい!」とわざと明るくした声が響く。
その声の主が扉を開ける前に、ドアノブを捻る。
「…ええ?」
そこには、予想通りに想良がいる。
それを見て、そのまま中に踏み入る。
「入るぞ」
「…えっ!ちょっと!」
想良は慌てて扉を閉める。
部屋がさっきより静かに感じる。
喉がヒリヒリとする。みぞおちにある渦が収まらない。
彼女のびっくりしたその顔が気に入らない。
「ど、うしたの」
さっきまで笑っていたはずなのに、引きつった顔をしている。
「どうしたのって、こっちのセリフだよ」
怪訝そうな顔で僅かに小首を傾げる。
「ここでは普通に声出るんだな」
彼女の笑顔は凍りつくみたいに引きつった。
「どうしたんだよ」
今度は俺がそう尋ねた。
さっきまで笑い声で溢れていた控え室は、信じられないくらいの沈黙に包まれる。
部屋の外から聞こえる忙しない足音や人の話し声が余計に響く。
彼女はずっと俯いていた。
表情は見えない。髪が影をつくっていた。
でも待つしかない。
ついでに買っておいた自分用のコーヒー缶に口を付ける。
「君はどこまで知ってるのかな」
彼女は唐突に口を開いた。
どこまで。そう聞かれても言えることはない。
「何も知らない」
「うそだ」
俯いていた顔を俺に真っ直ぐ向ける。その視線は試すようにキツい。
「ネットの記事、見たって言ってたよね」
想良は合わせていた視線をふっと笑って逸らした。
その横顔は強く結ばれていたけれど、今にもほつれそうな脆さがある。
「みたよ。でも、想良から本当のこと何も聞いていないから。それは何も知らないのと一緒だろ」
驚いたようにこちらを見つめる。彼女の大きな瞳に俺が小さく映る。
その目には苦しみが溜まっている。そして、一粒、頬を伝った。
俺は彼女の座るソファーに腰をかけた。
「なにがあったの?」
ふるふると首を横に振る。
俺はその小さな手をとって、両手で包んだ。
俺をみつめる彼女の頬はいく筋もの涙が伝った痕が見えた気がした。
そして壊れたように、ははっと笑った。
「…なんでなんだろ。私もなんでなのか全くわかんないんだよ」
ぽつりと呟いた。
取り出し口から缶を持ち上げる。指先にじんわりと温かさが伝わった。
しばらくそのまま立ち尽くす。
でも、ここで立っていても何も変わらない。俺は小さく息を吐いて、廊下へと足を向けた。
想良の楽屋は、廊下の突き当たりだ。
撮影スタジオ特有の慌ただしい空気が漂っている。
スタッフが行き交い、機材を運ぶ音や誰かの指示が飛び交っていた。
その中を、コーヒー缶を握ったまま歩く。
扉の前まで来て、足を止める。
右手を上げて、扉を叩く。
軽い音が鳴ると、中から「はい!」とわざと明るくした声が響く。
その声の主が扉を開ける前に、ドアノブを捻る。
「…ええ?」
そこには、予想通りに想良がいる。
それを見て、そのまま中に踏み入る。
「入るぞ」
「…えっ!ちょっと!」
想良は慌てて扉を閉める。
部屋がさっきより静かに感じる。
喉がヒリヒリとする。みぞおちにある渦が収まらない。
彼女のびっくりしたその顔が気に入らない。
「ど、うしたの」
さっきまで笑っていたはずなのに、引きつった顔をしている。
「どうしたのって、こっちのセリフだよ」
怪訝そうな顔で僅かに小首を傾げる。
「ここでは普通に声出るんだな」
彼女の笑顔は凍りつくみたいに引きつった。
「どうしたんだよ」
今度は俺がそう尋ねた。
さっきまで笑い声で溢れていた控え室は、信じられないくらいの沈黙に包まれる。
部屋の外から聞こえる忙しない足音や人の話し声が余計に響く。
彼女はずっと俯いていた。
表情は見えない。髪が影をつくっていた。
でも待つしかない。
ついでに買っておいた自分用のコーヒー缶に口を付ける。
「君はどこまで知ってるのかな」
彼女は唐突に口を開いた。
どこまで。そう聞かれても言えることはない。
「何も知らない」
「うそだ」
俯いていた顔を俺に真っ直ぐ向ける。その視線は試すようにキツい。
「ネットの記事、見たって言ってたよね」
想良は合わせていた視線をふっと笑って逸らした。
その横顔は強く結ばれていたけれど、今にもほつれそうな脆さがある。
「みたよ。でも、想良から本当のこと何も聞いていないから。それは何も知らないのと一緒だろ」
驚いたようにこちらを見つめる。彼女の大きな瞳に俺が小さく映る。
その目には苦しみが溜まっている。そして、一粒、頬を伝った。
俺は彼女の座るソファーに腰をかけた。
「なにがあったの?」
ふるふると首を横に振る。
俺はその小さな手をとって、両手で包んだ。
俺をみつめる彼女の頬はいく筋もの涙が伝った痕が見えた気がした。
そして壊れたように、ははっと笑った。
「…なんでなんだろ。私もなんでなのか全くわかんないんだよ」
ぽつりと呟いた。

