海に凪ぐ、君の名前

自販機はガコン、と大きな音を立てて、ドリンクを落とす。

「ほら、飲め」

彼の手には、俺の好きなブラックコーヒーの缶が収まっていた。きっと、俺が好きだと分かって買ったんだろう。

ありがとう、と小さく呟いてそれを受け取った。

缶の蓋を開けて口に流し込むと、強い香りと苦味が広がる。温かい液体で、すこし落ち着く。

「…にっが。凪希、こんなの好きなのかよ」

ひとくち飲むと顔をしかめる。

「陽太は甘党だからな」

もうギブかも俺、と小さく嘆いて俺に缶を押付けた。そんな陽太がいつも以上に幼く見えて思わず笑ってしまう。

「やっと笑ったな」

「え?」

「お前ずーっと暗い顔してたぞ、女子と話す時も。いつものあのキラキラスマイルどこいったんだよ」

少し驚く。陽太には、俺の作り笑いがバレているみたいだ。しかも、様子がおかしかったこともバレてしまってる。

「まあ、ね」

視線が泳いでいるのが自分でもわかる。でも、ちょうどいい言い訳が思い浮かばない。

「なんだよ。もしかして、一目惚れのあの子となんかあったの?」

「え!…いや、なんもないけど」

まさか言い当てられるとは。

びっくりしすぎて、飲み込みかけていたコーヒーを吹き出しそうになる。

「へえ、やっぱりそうなんだ。あの凪希が恋にわたわたしてるよ」

「どの凪希だよ」

ははは、と隣で笑う陽太に話したいと思った。

というか、これまでの全部のことを聞いて欲しいと思った。

周りをよく見ている優しいこいつに。

「俺さあ」

「ん?なに」

にかっと笑った陽太に、俺はこれまでのことを、話した。