「ねー凪希くん!今日、カフェ行かない?」
「えっと、カフェ?」
授業終了のチャイムがなり終わってすぐに、確か前の時間の休み時間にも来た子に話しかけられた。
「うん!ここね、出来たばっかりなんだけど、すっごく人気でね!…よかったら、一緒に行きたいなって…」
そう言って、彼女は渾身の上目遣いをしてきた。
ちらっと彼女の後ろの方に目をやると、少し離れたところから女子数人がヒソヒソと話していた。友達だろう。
彼女は俺の顔、好きなんだろうな。
わざわざワイシャツのボタンを3個目まで開けて来る感じとか、つやつやのリップを塗りたくってきた感じとか。
「あーごめん。今日塾だ。また誘って」
塾なんて行っていない。また誘ってとか、1ミリも思っていない。
名前も知らない女と、誰が遊ぶか。
「そうなんだあ。じゃあ、都合のいい日あとで教えてね」
彼女は少し悲しそうな顔をして目を伏せた。
「分かった、またね」
俺は目を細め、唇は弧を描いた。
彼女は後ろにいた女子数人の元へ戻ると、「予定あったなら仕方ないよ!」「嫌われてる訳じゃないし元気だしな?」と励ます声がかすかに聞こえる。
(嫌ってる訳じゃないけど、そもそも興味がないというか)
重圧に近い何かを持つように、机の上に置いていたリュック背負って、教室から出た。
規則的に作られた階段を下っていくまでにも、通り過ぎる何人かと言葉を交わした。
凪希くん。凪希。沖野。なぎ。ナギ。そんなたくさんの「自分」として。
その度に、相手が望んでいる言葉を発し、時にはふざける。
自分でも、恐ろしいと思う。
都合のいい言葉ばかりをつらつらと並べているのに、心の奥ではそんなこと微塵も思っていないのだから。
沖野 凪希という人間は、完璧で誰にでも優しくて暖かい。まるで凪のような男だ、ということにしている。
でも実際は、とんでもない嘘つきで、捻くれ者で、クズだ。
優しくて透き通っていることを凪というなら、俺は何者なんだろうか。
凪ではなく、澱だろうか?
本当に、あべこべだ。本当の俺はなんなんだろうか。
少なくとも、心の奥にいる“こいつ”ではあってほしくはない。
やさぐれた気持ちが表に溢れる。靴箱から取り出した靴がバチンと音を立て床に転がる。
生ぬるい靴に足を突っ込んで、とんとんとつま先を地面に叩きつけた。
昇降口から1歩でも出ると、そこは灼熱だ。
いかにも、夏らしい。でもいい感じはしない。蝉が耳を刺し、日差しは脳天を刺す。あちこちから攻撃を受けているように思う。
汗がこめかみを伝う。
「もう、夏だな」
呟いた言葉は、蝉がかき消した。
ふっと鼻で笑って、家への道から外れた道を辿った。
「えっと、カフェ?」
授業終了のチャイムがなり終わってすぐに、確か前の時間の休み時間にも来た子に話しかけられた。
「うん!ここね、出来たばっかりなんだけど、すっごく人気でね!…よかったら、一緒に行きたいなって…」
そう言って、彼女は渾身の上目遣いをしてきた。
ちらっと彼女の後ろの方に目をやると、少し離れたところから女子数人がヒソヒソと話していた。友達だろう。
彼女は俺の顔、好きなんだろうな。
わざわざワイシャツのボタンを3個目まで開けて来る感じとか、つやつやのリップを塗りたくってきた感じとか。
「あーごめん。今日塾だ。また誘って」
塾なんて行っていない。また誘ってとか、1ミリも思っていない。
名前も知らない女と、誰が遊ぶか。
「そうなんだあ。じゃあ、都合のいい日あとで教えてね」
彼女は少し悲しそうな顔をして目を伏せた。
「分かった、またね」
俺は目を細め、唇は弧を描いた。
彼女は後ろにいた女子数人の元へ戻ると、「予定あったなら仕方ないよ!」「嫌われてる訳じゃないし元気だしな?」と励ます声がかすかに聞こえる。
(嫌ってる訳じゃないけど、そもそも興味がないというか)
重圧に近い何かを持つように、机の上に置いていたリュック背負って、教室から出た。
規則的に作られた階段を下っていくまでにも、通り過ぎる何人かと言葉を交わした。
凪希くん。凪希。沖野。なぎ。ナギ。そんなたくさんの「自分」として。
その度に、相手が望んでいる言葉を発し、時にはふざける。
自分でも、恐ろしいと思う。
都合のいい言葉ばかりをつらつらと並べているのに、心の奥ではそんなこと微塵も思っていないのだから。
沖野 凪希という人間は、完璧で誰にでも優しくて暖かい。まるで凪のような男だ、ということにしている。
でも実際は、とんでもない嘘つきで、捻くれ者で、クズだ。
優しくて透き通っていることを凪というなら、俺は何者なんだろうか。
凪ではなく、澱だろうか?
本当に、あべこべだ。本当の俺はなんなんだろうか。
少なくとも、心の奥にいる“こいつ”ではあってほしくはない。
やさぐれた気持ちが表に溢れる。靴箱から取り出した靴がバチンと音を立て床に転がる。
生ぬるい靴に足を突っ込んで、とんとんとつま先を地面に叩きつけた。
昇降口から1歩でも出ると、そこは灼熱だ。
いかにも、夏らしい。でもいい感じはしない。蝉が耳を刺し、日差しは脳天を刺す。あちこちから攻撃を受けているように思う。
汗がこめかみを伝う。
「もう、夏だな」
呟いた言葉は、蝉がかき消した。
ふっと鼻で笑って、家への道から外れた道を辿った。

