第二章、【最弱スキルで転生した俺、駆け出しの町でいきなりビビる】

森を抜けた俺が見たのは、立派な大都市──じゃなかった。

ちょっとくたびれた、だけど温かみのある小さな町だった。

木造の家が並び、馬車がのんびり行き交い、行商人たちの威勢のいい声が響く。





森の中でウサギに導かれてたどり着いた町。

俺は不安と期待が入り混じった顔で、大きく深呼吸した。

とりあえず、第一目標はギルド登録。

そう思って看板を探していると──

「君、見ない顔だね」



突然、そんな声をかけられて、俺はビクリと肩を跳ねさせた。



振り向くと、そこにはふわふわの金髪をツインテールにまとめた女の子が立っていた。

年は……俺よりちょっと下くらい? なのに、堂々とした笑顔で、まっすぐこちらを見ている。

「もしかして、今日この町に来たばかり?」

「は、はい……たぶん……」

口ごもる俺に、彼女はぱっと表情を輝かせた。

ギルドの制服っぽい服を着た彼女は、俺ににっこり笑いかける。

「私はミーナ! この町のギルドで受付してるんだ! 初心者さん、案内してあげるねっ!」

まるで迷子の子供を拾ったみたいなテンションだ。

「あ、えっと……お願いします……」

慣れてるのか、俺の腕を取ってぐいぐいと引っ張る。

こうして、俺の"駆け出し冒険者"としての第一歩は、

予想よりもずっと強引なかたちで始まった。



【駆け出しの町『リーベル』】

ギルドは町の中心にあった。

木造でできた建物は古びていたけど、どこか温かみがある。

ギィィ……と重い扉を開けると、

中から酒と汗と、皮の匂いが入り混じった空気が一気に押し寄せた。



「……すげぇ……」



思わず呟いた声は、ガヤガヤと賑わう冒険者たちの声にかき消される。

鎧を着たごつい男たち、軽装の女性戦士、ローブ姿の魔法使いっぽい人までいる。

俺みたいな【最弱スキル持ち】なんて、一目で場違いだってわかる。



だけど──

ミーナが手を引いてくれる、その温かさだけが、今の俺の支えだった。

「はい、ここで登録できるから、必要事項を書いてね!」

渡された紙とペン。

見よう見まねで、名前と──スキル欄に、俺は震える手で【微風】と書き込んだ。

ミーナがちらりとそれを覗き見ると──一瞬、口元がひきつった。



「……う、うん! だ、大丈夫だよ! 最初はみんなそんなもんだよ!」

明らかに無理やりな笑顔だった。

(やっぱ最弱ってバレバレだよなぁぁああ!!)

俺は頭を抱えながら、ひとまず登録を終えた。



「じゃあ次は、装備整えなきゃね!」



勢いそのままに、ミーナに武器屋へ連れて行かれる。

向かったのは『バルド工房』──町で唯一の武器屋だった。

カンカン、と打ち付ける金属音。

店の奥では、熊みたいな大男が鉄を打っている。

「おう、客か」

バルドと呼ばれるその男は、ギロリと俺を一瞥した。



「……ひょろいな。剣はまだ無理だな。短剣でも持っとけ」



無愛想に言いながら、棚から短剣を一本取り出して手渡してくる。

差し出された短剣は、小ぶりだけど、しっかり重みがあった。

「これ……いくらですか?」

「金はいい。冒険者が育つ方が、町のためだ」

バルドはぽつりと、ぶっきらぼうに言った。

俺は驚きすぎて、しばらく口がきけなかった。

この町は、こんな俺にも優しい。

それがたまらなく嬉しかった。



短剣を腰に差して、町の広場に戻る。

空は夕焼けに染まり、町の人たちが行き交う姿がどこか懐かしかった。

もちろん、俺の持ってる力は【微風】だけ。

戦い方なんて知らないし、冒険なんて夢のまた夢だ。

だけど──



「それでも、ここで、やってみよう」



小さな決意を胸に、俺はぎゅっと拳を握った。

まだ、何者にもなれない俺だけど、

この世界で、何かを掴みたかった。

森から始まった迷子の冒険。これから何が起こるか分からない。けど俺はここでやっていきたいと思った。

最弱スキル、『微風』スキルの俺。そんな最弱者の俺のスローライフ(?)はまだまだこれからだ!