「わたし、花火見てくるから!」
慌てて駆け出したから、もう少しで転ぶところだった。ワンピースが足にまとわりつく。これは、すごく走りづらい。柔道で習った深呼吸をひとつして、あえて「少し早歩き」くらいの速さで歩く。
きっと、花火はこうしてる間に終わってしまうんだろうな。とわかる。
せっかく、朔くんが誘ってくれたのにな。
もったいなかったな。
やっぱり、花火はあっという間に終わってしまった。中庭からみんな戻ってきてる。その列に歯向かいながら、歯を食いしばって歩いてた。
中庭にようやく着く。
朔くんは腕時計を撫でながら、ひっそり待ってた。
「朔くん!!!」
わたしは大きな声を出す。
朔くんが顔をあげる。少し安心したように笑ってた。
「良かった。伊月に会えて」
朔くんは穏やかに言う。全然、遅れたことを責めなかった。
「花火は終わったけどさ。この方が良かったかも。混雑しすぎてたのが嘘みたいだな。中庭だけ歩こう」
朔くんは自然に手を差し出した。わたしは彼の手を握る。心臓の音がうるさいよ。耳にまでこだましてるよ。



