ブッフェ会場って、人がともかくたくさん。そして、速水さんはともかく、この場所に慣れてる。
 わたしがまごまごしてたからかな。わたしの分のお皿も取り上げてしまうと、行列にスマートに並んで、ミスジ肉のステーキとか魚介類のグリルなどをとってきてくれた。

「ごめんな。ブッフェって自分がとるのが醍醐味なのに」

 速水さんはボソリと言う。少し照れてるみたい。

「ううん。速水さんにとってもらえて助かった。ありがと!」

 わたしがお礼を言うと、彼は「なんだかなー」とつぶやいて、機嫌悪そうに黙ってしまった。

「褒めてもらえて嬉しいんだけど、スッゲー複雑。『速水さん』はあまりに、他人行儀だよね。朔くんとか、いっそ、朔でいいよね!」

「そんなぁ」
 
 わたしなりに、リスペクトを表してたんだけど。

「俺も、そのかわり、伊月って呼ぶからさ。じゃあ
一旦、解散な。あとで、また中庭来てよ。三十分後くらい目安に。絶対、一人で来なよ!」

 速水さん……あらため、「朔くん」になるのかな。
 朔くん。そんな。言えないよね。とても。
 呼び捨てなんて、もちろんできないし。

 まごまごしてしまうよ。

「伊月ー。皿、とりあえず置きにいけよー」
 気づくと、兄貴が一人で、山盛りの皿を持って立ってる。兄貴は意味深に笑ってる。