8月3日は土曜日。わたしは両親と葉月兄貴と、江ノ電に乗り、七里ヶ浜で降りた。
 細い路地を進んで、長い坂を登る。目指すホテルが見えてきた。
 鎌倉でも老舗のそのホテルは、夏中、ディナーブッフェを開催してる。

 夏だというのに「秋のぶどうフェア」というネーミングなのがなんとも言い難いけれどね。

 ブッフェ会場に着くと、お父さんが自信満々に胸を張って、「予約していた赤嶺です!」と声を張り上げた。他のお客さん、みんな見てるし。もうー。恥ずかしいなあ。

 葉月兄貴はふんふんと深夜アニメの鼻歌なんて歌いながら、お父さんの後ろについていく。二人ともどんどん行ってしまう。奥の方の席に案内されてる。
 この夏の始めに捻挫をして足が今も悪いお母さんを支えながら、わたしはゆっくり歩いた。
 
 ホテルブッフェ。わたしたち家族にとっては数年に一度の贅沢な空間だ。前に来たのは小学校五年生の時。変な話だけど、「わたしに初潮が来たお祝い」のブッフェだったの。
 今回は、兄貴の「関東大会敗退、残念会」なんだ。
 薄暗がりを照らす眩い白い照明に、意識がふわりふわりとする。