わたしだって頑張ってるのに、「葉月兄貴ばかり」両親は見てるよね。
人には決して打ち明けられない悔しさに、シャープペンを持つ力を込める。ぽきりと芯が折れた。かしゃかしゃと微かな音で、周りに気を遣いながら芯を出す。
数学のプリント課題提出まであと5分。
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弁天先生は、しおかぜ塾の下の朝ごはん屋さんの親父さんの「歳の離れた妹さん」のアラフォー女性。なおかつ、未婚で、それなりに(言ってみれば、「魔性の女」っぽい風情に)整った顔立ちをしてる。ピンクのTシャツという、塾講師にはあるまじき服装なの。下手をしたらおへそが見えそうなくらいの短いTシャツ。
すごいのは、この先生はハーバード大学を「2年で中退してる」ことだ。中退というと響きが悪いものの、そもそもハーバードなんて、入れただけでものすごい。その後、世界各国を漫遊してたら「四十路になってしまった」みたい。
弁天先生は、時間になると手際良く、数学のプリントをまとめて、採点を始めた。テストの採点中、5分くらいは「限られた自由時間」。トイレは行けないものの、水分補給と小声の会話くらいならできる。
わたしは、さっき買ったぶどうジュースに目をやる。わたし自身は他に2本、ペットポトルを持ってる。速水さんが良ければ、このぶどうジュース、あげたっていい。
速水さんは、さっきあげたペットボトルは「弟妹と分けて飲む」らしいから、持ち帰るつもりなんだろうし。



