赤嶺《あかみね》道場は柔道の道場。わたしのお父さんが沖縄から鎌倉に来た時に開いたものだ。
 朝6時。道場内で、「やぁー!!!」と、威勢のいい掛け声が響いてる。
 わたし、赤嶺伊月《あかみね・いつき》は小学校卒業と同時に柔道をやめてた。中学二年生の今、再び、道場の重たい扉を開ける。
 畳の匂いと汗の臭いが混じるおごそかな空間で、双子の兄貴、葉月《はづき》兄貴が、師匠のお父さんに立ち向かっていた。二人とも、わたしが道場内に入ってきたのに気づきもしない。

 家族なんだから、声をかけたっていい。
 でも、今日の兄貴が出るのは「関東大会」。

 邪魔をしちゃいけない、と思う。
 兄貴の気迫が痛々しいくらいに伝わってくる。
 薄い唇を噛み締めて、二人に声をかけずにわたしは道場をあとにした。

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 その日の朝も、わたしは鎌倉駅から江ノ電に乗り、長谷駅で降りた。長谷駅から徒歩十分の「しおかぜ塾」に、この夏休みの間中は通っているんだ。