【番外編】イケメン警察官に2人ごと守られて。

依頼者の転居が決まったことで、その新しい住まいを管轄する交番――青葉町南交番と連携する必要が出てきた。
美香奈は、手続きのため、何度か交番を訪れるようになった。


そこで応対に出てきたのは、長谷川だった。
美咲の旦那さん――。
これまで、どちらかといえばおちゃらけた一面ばかり見てきた彼を前に、美香奈は少しだけ緊張した。


「お疲れさまです、美香奈さん。」
制服に身を包んだ長谷川は、明るい挨拶とともに、きちんとした姿勢で迎えてくれた。


書類に目を通す手つきは素早く、確認事項も無駄がない。
DV被害者支援というデリケートな案件にも関わらず、長谷川は冗談ひとつ挟まず、的確な対応を見せた。


「巡回強化については、今日から即対応に入ります。重点巡回ルートに組み込みました。夜間も重点的に見回ります。」
淡々と進める口調には、重たい責任感が滲んでいた。


その姿を見ながら、美香奈はふと、自分の中の感覚が変わっていくのを感じていた。


これまで、どこか”美咲の旦那さん”という私的な目で見ていた。
親しい友人の夫で、ちょっとおちゃめで、どこか憎めない存在。
けれど今、自分の目の前にいるのは、誰かの命と向き合い、守ろうとしている「警察官・長谷川康太」だ。


「相談歴の照会についても、必要書類をまとめています。住民票秘匿の件は、交番内で周知徹底済みです。」
長谷川は、資料を丁寧に揃えながら言った。


「被害者の方が安心して暮らせるように、できる限りのことはします。少しでも気になることがあれば、遠慮なく言ってください。」


言葉に気負いはない。けれど、そこには確かな覚悟があった。


美香奈は、思わず深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。すごく、心強いです。」


顔を上げると、長谷川は少し照れたように笑いながら、それでも真っすぐにこちらを見つめていた。
「俺たちの仕事ですから。」


その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
ただの友人の旦那さんではない。
今、自分はこの人と、支援者として、そして公の立場で共に戦っているのだ――。


交番を後にしたとき、冷たい春風が吹いていたけれど、美香奈の心は、どこか温かく満たされていた。