「康太くん?」
スマホを耳に当てた美咲が、ふわっと笑う。
同じテーブルに座る美香奈が、
「彼氏さん?」と小声で聞くと、美咲はにっこり頷いた。
『……いや、別に用事とかじゃないんだけどさ』
電話口の康太は、どこか落ち着きがない。
『今日の晩ごはん、楽しみにしててほしいな、って……それだけ』
「ふふ、うん。楽しみにしてる」
美咲は笑いながら答え、スマホを置いた。
「なんか今朝、交番の前通ったけど、長谷川さん、変にそわそわしてたなー」
美香奈がクスクス笑うと、美咲も「でしょ?」と笑う。
でも、美香奈は知っている。
今日、康太は、プロポーズをするつもりなのだ。
知らないふりをして、胸の中で小さくエールを送った。
(がんばれ、長谷川さん)
ポケットには、小さなリングケース。
未来を賭けた、たった一つの言葉を、彼はこの夜、美咲に贈ろうとしていた。



