月曜日の朝。
いつものように業務が始まる。
キーボードを叩く音、電話の応対、同僚の話す声。
――いつも通りのはずなのに。
優香は、パソコンのモニターを見つめながら、どこか現実感のない時間を過ごしていた。
二週間前に別れを告げた和希のことが、頭から離れなかった。
あの夜、自分の言葉で和希を遠ざけたこと。
静かに返された、彼の想い。
――仕事に集中しなきゃ。
今、総務部内で進めているのは、会議室不足の解消に向けたオフィスレイアウトの見直しだった。
フリーアドレス席の一部を見直し、簡易なミーティングができるオープンスペースを確保するという計画だ。
この案は、もともと優香が提案したものだった。
「無駄な動線を減らせば、作業効率も上がるはず」
「キャビネットの配置をこうすれば、視線を遮れる」
いつもなら、そのような細部まで気を使っていた。
けれど......最近の優香は、どこか集中力を欠いていた。
この日も、部内レビューで指摘を受けた。
「オープンスペースの横がプリンターへの動線になっていますよ。簡易とは言え、ミーティング中に近くを多くの人が通るのは......」
「あっ」優香は、言葉に詰まる。
見落としに気付き、冷や汗が滲む。
――私らしくない。
プリンターへの動線を修正しながらも、何か虚しかった。
自分が提案したオフィスレイアウトの改善。
社員の働きやすさのために工夫してきたのに、その気持ちも上滑りしていた。
◇◇
その日、帰宅しても心に虚しさを抱えたままだった。
テレビを付け、生放送の音楽番組にチャンネルを合わせる。すると、AXIONのライブ映像が目に飛び込んできた。そこには、観客の歓声の中、ライトを浴び、センターで踊る和希の姿があった。
流麗かつメリハリのある動き、自然な笑顔。
あの夜、自分に別れを告げられた後なのに、変わらない完璧なパフォーマンスを見せていた。
――梢との件が報道されたときも、彼のパフォーマンスは変わらなかった......
優香は、画面越しに和希の笑顔を見つめながら、彼の言葉を思い出していた。
「本当の自分を見て欲しいだけなんだ」
「君といる時は、無理しないでいられる」
あの言葉の重さが、今になって胸にしみる。
――私、逃げただけだ。
傷つくのが怖くて、彼を守るのを口実にして、結局は自分の安心のために背を向けた。
和希は、今も変わらずステージに立ち続けている。プロとして、強く美しく。
私も、彼にふさわしい自分でありたい。そう思った。
◇◇
その夜遅く、優香はスマホ手に取り、和希にメッセージを送った。
「少しだけ、話せませんか」
指は震えていたが、迷いはなかった。
10分程して「いいよ」の返信が届いた。
いつものように業務が始まる。
キーボードを叩く音、電話の応対、同僚の話す声。
――いつも通りのはずなのに。
優香は、パソコンのモニターを見つめながら、どこか現実感のない時間を過ごしていた。
二週間前に別れを告げた和希のことが、頭から離れなかった。
あの夜、自分の言葉で和希を遠ざけたこと。
静かに返された、彼の想い。
――仕事に集中しなきゃ。
今、総務部内で進めているのは、会議室不足の解消に向けたオフィスレイアウトの見直しだった。
フリーアドレス席の一部を見直し、簡易なミーティングができるオープンスペースを確保するという計画だ。
この案は、もともと優香が提案したものだった。
「無駄な動線を減らせば、作業効率も上がるはず」
「キャビネットの配置をこうすれば、視線を遮れる」
いつもなら、そのような細部まで気を使っていた。
けれど......最近の優香は、どこか集中力を欠いていた。
この日も、部内レビューで指摘を受けた。
「オープンスペースの横がプリンターへの動線になっていますよ。簡易とは言え、ミーティング中に近くを多くの人が通るのは......」
「あっ」優香は、言葉に詰まる。
見落としに気付き、冷や汗が滲む。
――私らしくない。
プリンターへの動線を修正しながらも、何か虚しかった。
自分が提案したオフィスレイアウトの改善。
社員の働きやすさのために工夫してきたのに、その気持ちも上滑りしていた。
◇◇
その日、帰宅しても心に虚しさを抱えたままだった。
テレビを付け、生放送の音楽番組にチャンネルを合わせる。すると、AXIONのライブ映像が目に飛び込んできた。そこには、観客の歓声の中、ライトを浴び、センターで踊る和希の姿があった。
流麗かつメリハリのある動き、自然な笑顔。
あの夜、自分に別れを告げられた後なのに、変わらない完璧なパフォーマンスを見せていた。
――梢との件が報道されたときも、彼のパフォーマンスは変わらなかった......
優香は、画面越しに和希の笑顔を見つめながら、彼の言葉を思い出していた。
「本当の自分を見て欲しいだけなんだ」
「君といる時は、無理しないでいられる」
あの言葉の重さが、今になって胸にしみる。
――私、逃げただけだ。
傷つくのが怖くて、彼を守るのを口実にして、結局は自分の安心のために背を向けた。
和希は、今も変わらずステージに立ち続けている。プロとして、強く美しく。
私も、彼にふさわしい自分でありたい。そう思った。
◇◇
その夜遅く、優香はスマホ手に取り、和希にメッセージを送った。
「少しだけ、話せませんか」
指は震えていたが、迷いはなかった。
10分程して「いいよ」の返信が届いた。



