社員総会から始まる物語-サプライズ企画で出会った彼は、人気スター

 騒動は、一応の沈静化を見せていた。
 梢の夫が「単なる誤解」と明言し、週刊誌も続報は控える姿勢を見せていた。
 それでも、インターネットには憶測と好奇心が渦巻いていた。

 会社では、もう誰も話題にしなくなっていた。
 その場にいた優香のことは全く触れられていないので、当然と言えば当然だ。
 それが逆に、心を締めつけた。

――たまたまAXIONのイベントを担当した私が、和希さんと親しいと知れたら……

 今回のスキャンダルでは、矛先はあくまで梢に向けられていた。
 でも、もしこれが「和希と一般人女性の交際」だということなら――
 自分も、同じように晒されるかもしれない。

 そのとき、自分は耐えられるだろうか?
 彼を守れるだろうか?
 彼の評判を傷つけてしまわないだろうか?

――私は……彼の隣に立つ資格なんて、ない。

 そう思ってしまう自分がいた。

 彼と過ごす時間は幸せだった。
 けれど、同時に、その幸せが怖くなっていた。

――これ以上、関係が深くなる前に。

   ◇◇

 夜。
 公園のベンチに並んで座ったまま、優香はゆっくりと声を絞り出した。

「……もう、会えない」

 和希が、ゆっくりと顔を上げる。

「私……和希さんといると、幸せです。
 でも、それだけじゃ、もう足りないと思ってしまいました。
 きっと、これからもっと騒がれる。
 私がそばにいることで、あなたが傷つく未来を想像すると……耐えられないんです」

 自分の声がかすれていく。
 和希の姿を見るのが怖くて、視線を落としたまま、必死に言葉を継ぐ。

「あなたの足を引っ張りたくない。それが、私の気持ちです」

 沈黙。
 やがて、和希は静かに言った。

「確かに、俺は有名人だ。
 そのせいで、君が好奇の目にさらされるのは、怖いって思う。でも――」

 一拍置いて、言葉を紡ぐ。

「俺も、ただの一人の男なんだ。
 一人の男として、好きな人を、大切に守りたいって思っている」

 その言葉は、静かで、まっすぐで、優しかった。

 けれど、優香は答えられなかった。
 彼の想いに応えたいと願う自分と、身を引こうとする自分がせめぎ合っていた。

 和希は、立ち上がり、歩き出した。
 そして、去り際に、低く落ち着いた声が聞こえた。

「……無理は、しないで」

 そのひとことが、優香の胸に深く残った。