社員総会から始まる物語-サプライズ企画で出会った彼は、人気スター

 ふたりは、忙しい合間を縫って、静かにデートを重ねていった。
 人気の少ない美術館、閑散としたカフェ、夜の公園――
 人目を避けながらも、心を通わせる時間は、優香にとってかけがえのないものだった。

 和希は、有名人のオーラを纏いながらも、驚くほど自然だった。
 笑った顔も、怒った顔も、照れた顔も。
 テレビの中で見る彼とは違う、素の表情を、優香は少しずつ知っていった。

   ◇◇

 ある晩。
 都内のビルの展望ラウンジにふたりは並んで立っていた。

 足元には、街の灯りが宝石のように広がっている。

「……やっぱ、綺麗だな」

 和希がぼそりと呟く。
 その横顔を、優香はそっと見つめた。

「でも、俺……この景色も、今、君が隣にいるから特別なものに見えてくるんだと思う」

 ふいに、そんな言葉をつぶやく。

 優香の心臓が跳ねた。

 和希は、照れくさそうに笑いながら、続ける。

「……好きだよ、優香」

 優しく、でもまっすぐな声だった。

「初めて会ったときから、なんか、惹かれてた。
 もう誰にどう思われたっていい。俺は……君が、好きだ」

 胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。

 ――私も……同じ気持ち。

 言葉にならない想いを抱えたまま、優香は小さく頷いた。

 和希は、ほっとしたように微笑むと、そっと手を伸ばしてきた。

 触れた指先が、震えているのがわかった。
 きっと自分も同じだ。

 ふたりの間の距離が、静かに、でも確かに縮まった。

 そして――
 ためらいがちに、和希が優香にキスした。

 柔らかく、温かく、優しいキスだった。

 夜空に、風が吹き抜ける。
 でも、ふたりの世界は、時間が止まったかのようだった。

 それから、ふたりは黙ったまま展望台を降りた。
 でも、つないだ手は、ずっと離さなかった。

 優香の心は、幸せでいっぱいだった。