社員総会から始まる物語-サプライズ企画で出会った彼は、人気スター

 それから何度か、和希は仕事の合間を縫って、優香に連絡をくれるようになった。
 短いメッセージのやりとり。
 だけど、ひとつひとつの言葉に、優香は胸を高鳴らせた。

 ある休日。
「今日、空いてる?」
 和希からそんなメッセージが届いた。

 ――空いてる、けど。

 胸がどきどきする。けれど、返事はすぐに打った。

「はい。大丈夫です」

 そして、待ち合わせ場所に指定されたのは、庭園のある都内の小さな美術館だった。

「ここ、混まないから好きなんだ」

 そう言って和希は、キャップにマスクというラフな格好で現れた。
 それでも隠しきれない存在感に、優香は一瞬、息を呑んだ。

 二人は、並んで展示室を歩いた。
 静かな空間に、靴音だけが響く。

「この絵、好きなんだよな」風にそよぐ竹、そこに寄り添う二羽の雀が描かれた墨絵。

「……静寂の中に、生命の躍動を感じさせる」

 小さな声で呟く彼に、優香はそっと横顔を見た。
 テレビの中で見る、あの華やかなパフォーマーとは違う。
 ごく普通の、ひとりの男性の顔だった。

「私も、好きです。……こういう絵」

 自然に言葉がこぼれた。

 和希は微笑んだ。

「……なんかさ、優香とだと、無理しなくていいって思うんだ」

 その言葉に、優香の胸がじんわりと温かくなる。

 ――無理をしない。……そんなふうに思ってもらえるなんて。

 その後、ふたり庭園を望むカフェに立ち寄った。
 窓際の席で、コーヒーを挟んで、他愛のない話をした。

 好きな音楽、最近読んだ本、昔の夢――
 ひとつひとつの話題が、自然に広がっていく。

 和希は、楽しそうに笑いながら言った。

「こういう時間、ほんとに久しぶり。……ありがとう」

 その言葉が、優香の心に静かに響いた。

 この人は、きっとたくさんの光の中で、たくさんの孤独を抱えてきたんだ。
 そんなことを、ふと感じた。

 ――私も、この人の力になれるだろうか。

 静かに、でも確かに。
 優香の心に、和希への想いが芽吹いていた。