あの社員総会から約一年たった春の日。
優香と和希は、静かに入籍を済ませた。
挙式や披露宴はしなかった。
騒がれずに、ごく普通の暮らしを始めることが、ふたりの願いだった。
新居は、都内の静かな住宅街の一角。
マンションの最上階ではないけれど、広すぎず狭すぎず、ほどよく風が通る。
玄関には小さな観葉植物、リビングには和希が好きなアート本と、優香が集めた食器が並ぶ。
「この部屋、落ち着くな」
ある日、コーヒーを淹れながら和希が言った。
優香はキッチンから顔をのぞかせて、ふっと微笑んだ。
「ね。少しずつ“私たちの場所”になってる気がする」
和希は、優香の隣に並ぶと、ふと壁を見上げた。
「……あとは、あれだな。
この壁に飾る、ぴったりの絵を探さなきゃ」
「探しに行く?」
「うん、二人で」
◇◇
週末、ふたりは小さなギャラリーをいくつか巡った。
ようやく出会えたのは、郊外のギャラリーで偶然目にした、一枚の絵だった。
木漏れ日の森の中。
寄り添うように並んだ、二羽の小鳥。
控えめな色使いと柔らかいタッチが、どこか優香と和希の今を映しているようだった。
「これ……いいな」
「うん。すごく、いい」
二人は並んで絵を見つめていた。
やがて和希が、そっと呟く。
「……なんかさ。
いろいろあったけど、こうして並んで同じものを見て、
“いいね”って言える今が、一番幸せかも」
優香は、絵の中の小鳥たちを見つめながら、静かに頷いた。
「うん。ほんとに、そう思う」
ギャラリーのスタッフが、後ろからそっと声をかけた。
「よろしければ、制作された画家にご挨拶されますか? 今、ちょうど奥におりますので」
二人は顔を見合わせ、小さく笑ってうなずいた。
ギャラリーの奥へと続く廊下の先。
ふたりは、手をつないだまま、その扉へと歩いていった。
<END>
優香と和希は、静かに入籍を済ませた。
挙式や披露宴はしなかった。
騒がれずに、ごく普通の暮らしを始めることが、ふたりの願いだった。
新居は、都内の静かな住宅街の一角。
マンションの最上階ではないけれど、広すぎず狭すぎず、ほどよく風が通る。
玄関には小さな観葉植物、リビングには和希が好きなアート本と、優香が集めた食器が並ぶ。
「この部屋、落ち着くな」
ある日、コーヒーを淹れながら和希が言った。
優香はキッチンから顔をのぞかせて、ふっと微笑んだ。
「ね。少しずつ“私たちの場所”になってる気がする」
和希は、優香の隣に並ぶと、ふと壁を見上げた。
「……あとは、あれだな。
この壁に飾る、ぴったりの絵を探さなきゃ」
「探しに行く?」
「うん、二人で」
◇◇
週末、ふたりは小さなギャラリーをいくつか巡った。
ようやく出会えたのは、郊外のギャラリーで偶然目にした、一枚の絵だった。
木漏れ日の森の中。
寄り添うように並んだ、二羽の小鳥。
控えめな色使いと柔らかいタッチが、どこか優香と和希の今を映しているようだった。
「これ……いいな」
「うん。すごく、いい」
二人は並んで絵を見つめていた。
やがて和希が、そっと呟く。
「……なんかさ。
いろいろあったけど、こうして並んで同じものを見て、
“いいね”って言える今が、一番幸せかも」
優香は、絵の中の小鳥たちを見つめながら、静かに頷いた。
「うん。ほんとに、そう思う」
ギャラリーのスタッフが、後ろからそっと声をかけた。
「よろしければ、制作された画家にご挨拶されますか? 今、ちょうど奥におりますので」
二人は顔を見合わせ、小さく笑ってうなずいた。
ギャラリーの奥へと続く廊下の先。
ふたりは、手をつないだまま、その扉へと歩いていった。
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