交際を再開してから、優香と和希は、少しずつ日常を取り戻していた。
人目を避けながらのデートは相変わらずだったが、
再びつないだ手のぬくもりは、確かにふたりの絆を深めていた。
和希の仕事は相変わらず多忙で、ツアーや収録で全国を飛び回っていたが、
その合間に優香の仕事終わりに合わせて会ってもくれた。
喫茶店で静かに話す時間。
展覧会で並んで絵を見て、感想を交わす時間。
そんな、どこにでもある恋人たちのような時間が、優香にとっては奇跡だった。
◇◇
だが、その穏やかな日々は、ある朝の一本の記事によって打ち破られた。
通勤途中、スマホを何気なく開いたとき、画面に現れたニュース。
***
「AXION・御子柴和希(30)、一般女性との真剣交際か」
関係者によれば、和希は企業イベントへの出演をきっかけに、ある会社員の女性と親しくなったという。
都内のカフェなどで親しげに過ごす姿がたびたび目撃されており、真剣交際との見方が強い。
所属事務所は「プライベートは本人に任せている」とコメントしている。
***
名前も、会社も書かれてはいない。
だが――その記事を見て、気づく人は、気づいてしまう。
優香は、思わずスマホを閉じた。
手のひらにじんわり汗が滲む。
◇◇
翌朝、出社した優香は、総務部長の宇田川に呼ばれた。
応接室に通されると、部長は淡々とした口調で言った。
「今回の報道、君のことで間違いないかな」
優香は「はい」と静かにうなずいた。
「事実関係と今後の対応について確認しておきたい。出社しにくい状況なら、しばらくの間、在宅勤務とすることも可能だが」
優香は、できるだけ冷静に答えた。
記事の内容は事実であること、記事の中で実名は出ておらず、現時点で取材や直接の問い合わせもないこと。
在宅勤務を希望するつもりはないこと――
部長は一通り聞き終えると、手帳を閉じ、こう告げた。
「分かった。会社としても必要な対応はとるので、これまで通り、業務に取り組んでください」
その日の午後、社内ポータルに簡潔な通達が掲示された。
※報道に関する問い合わせは、すべて広報部で対応します。
※記者・第三者の接触には応じないよう、速やかに上長または広報へご連絡ください。
※SNSや社内チャットでの憶測の共有・私的な詮索はお控えください。
それは、優香を特別扱いしない代わりに――
会社が背後でしっかりと支える、という意思表示にも思えた。
人目を避けながらのデートは相変わらずだったが、
再びつないだ手のぬくもりは、確かにふたりの絆を深めていた。
和希の仕事は相変わらず多忙で、ツアーや収録で全国を飛び回っていたが、
その合間に優香の仕事終わりに合わせて会ってもくれた。
喫茶店で静かに話す時間。
展覧会で並んで絵を見て、感想を交わす時間。
そんな、どこにでもある恋人たちのような時間が、優香にとっては奇跡だった。
◇◇
だが、その穏やかな日々は、ある朝の一本の記事によって打ち破られた。
通勤途中、スマホを何気なく開いたとき、画面に現れたニュース。
***
「AXION・御子柴和希(30)、一般女性との真剣交際か」
関係者によれば、和希は企業イベントへの出演をきっかけに、ある会社員の女性と親しくなったという。
都内のカフェなどで親しげに過ごす姿がたびたび目撃されており、真剣交際との見方が強い。
所属事務所は「プライベートは本人に任せている」とコメントしている。
***
名前も、会社も書かれてはいない。
だが――その記事を見て、気づく人は、気づいてしまう。
優香は、思わずスマホを閉じた。
手のひらにじんわり汗が滲む。
◇◇
翌朝、出社した優香は、総務部長の宇田川に呼ばれた。
応接室に通されると、部長は淡々とした口調で言った。
「今回の報道、君のことで間違いないかな」
優香は「はい」と静かにうなずいた。
「事実関係と今後の対応について確認しておきたい。出社しにくい状況なら、しばらくの間、在宅勤務とすることも可能だが」
優香は、できるだけ冷静に答えた。
記事の内容は事実であること、記事の中で実名は出ておらず、現時点で取材や直接の問い合わせもないこと。
在宅勤務を希望するつもりはないこと――
部長は一通り聞き終えると、手帳を閉じ、こう告げた。
「分かった。会社としても必要な対応はとるので、これまで通り、業務に取り組んでください」
その日の午後、社内ポータルに簡潔な通達が掲示された。
※報道に関する問い合わせは、すべて広報部で対応します。
※記者・第三者の接触には応じないよう、速やかに上長または広報へご連絡ください。
※SNSや社内チャットでの憶測の共有・私的な詮索はお控えください。
それは、優香を特別扱いしない代わりに――
会社が背後でしっかりと支える、という意思表示にも思えた。



