社員総会から始まる物語-サプライズ企画で出会った彼は、人気スター

 土曜日の昼前。約束した時刻。

 優香は、和希の住む高層マンションのエントランス前に立った。
 受付の前を静かに通り抜け、セキュリティゲートの手前で立ち止まる。

 テンキーに和希の部屋番号を入力すると、
「ピッ」という電子音とともに、オートロックのドアが静かに開き、優香は中に入った。

 エレベーターに乗り込み、部屋番号に対応してロック解除された最上階のボタンを押す。

 ドアが静かに閉まり、エレベーターが上昇を始める。

 やがて最上階に到着し、廊下を進んで、和希の部屋の前に立つ。
 インターフォンを押すと、すぐに声が返ってきた。

「開いてるよ。どうぞ」

 ドアを開けると、変わらぬ空間がそこにあった。

 優香は、緊張したまま、手に持った紙袋を差し出した。
「これ、今朝パン屋で買ってきました。人気なんです。和希さん好きそうだったから」
「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」

 リビングに通されると、和希はそっとマグカップを差し出してくれた。

「ホットミルク、好きだったよね?」

 優香は、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 マグカップを両手で抱えたまま、優香は静かに言った。

「……あのとき、あなたの言葉に応えられなかったのは、怖かったからです。
和希さんを想うって言いながら、本当は、自分を守ることしか考えてなかった」

 視線を下げたまま、言葉を続ける。

「でも今は、違います。怖くても不安があっても、あなたとなら一緒に乗り越えられます」

 顔を上げると、和希が見つめていた。

「俺は変わってないよ。
 優香が戻ってくれるなら、それだけでいい」
 そっと手が伸び、優香の頬に触れた。

「もう一度やり直そう」
「はい」

 和希は、優香のそばに来て、そっと抱きしめた。