七夕。ラムネ瓶ごしの片想い



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「速水さんに、女子たち誰も、声かけませんね」
 高校での人気を思うに、誰かから声をかけられて不思議はないのに。

 花火大会が終わって、だんだんみんな帰っていく。屋台も撤収し始めていた。でも、残ってる人たちもいた。わたしもなんとなく、速水さんの隣を動けなかった。
 それで、彼に話しかける気持ちになったんだ。

「そりゃ、君が隣にいるからじゃない? 俺の彼女だって、みんな思ってるんじゃないかな」
 さらりとした言葉になんの毒もないのに、心が鋭利なガラスで撫でられたように、ズキズキと痛む。 
 わたしはラムネ瓶をギュッと握りしめる。
 そんなに握ったら瓶が割れるのではないかと思うくらい強く。
 わたしの手からするりと、ラムネ瓶がさらわれた。なんで? 強く握りしめてたのに、あっさり持ってかれた。

「いつまでも飲まないなら、やっぱり返してもらおうかな」
 速水さんは子供がイタズラをするような目で笑う。
 もちろん、彼のお金で買ったものなのに、そしてわたしが飲まなかったのに。
 巨大な機会が逃げてしまったみたいで寂しくなった。もう花火もないこの会場で、わたしはひとりきりだな、と感じてた。

「それとも、半分こにするかい?」
 速水さんの言葉に毒はないのに。ないのに、わかる。わたしにはわかってしまう。
 この人に悪意がないだけ、その言葉が鋭利なガラスだってこと。葉月兄貴がこの人を嫌う理由が、今はすごくよくわかる。