七夕。ラムネ瓶ごしの片想い



「すごい汗。ハンカチも貸そうか?」
 さらりとした物言いでその人は言うと、わたしの手元にラムネ瓶を「強引に」押し付けた。この人が飲もうと思って、座る前に買ってきてたんじゃないの? なんで?
 
 わたしはそれでようやく、その人の顔を見た。

 会ってはならない人に会ってしまった。

 そう直感する。でも、遅い。

 葉月兄貴には、昔からとても折り合いが悪い男子が一人だけいた。兄貴と同学年に。
 物憂げそうな目。少し、生きてるのに飽きたとでも言いたげな、気だるい雰囲気を醸し出す「学年一位」の成績の人。
 気だるそうでも、その人はいつも、いかなる時も輝いていた。彦星様みたいに。
 雑誌に載ってるモデルのように、繊細で整った顔立ち。間近で見ると、ますますやばい。
 
 会ってはならない人。

 速水朔(はやみ・さく)。校内の女子からの人気が凄まじく、それでいて、彼女なんて作らないポリシーなのか。浮いた噂はなかった。でも、男子の友人も一人もいないみたいで。
 孤高の人。絵を描く才能も、ピアノを弾く才能も持つ。運動神経も人並み以上。どこにも隙のないその人の笑顔を誰も見たことがないって、そんな噂があった。

「なに? 俺の顔になんかついてる?」
 速水さんが少しだけ笑う。得難いものを見た。間近で見る彼の目は優しかった。
 目をそらさないで見過ぎてしまったのに気がつく。反動が来て、真下を向いて、もじもじしてしまう。汗が本当にたくさん出てきて、なのにハンカチ一つ、ティッシュ一つ、今日に限って持ってない。