花火大会に行ってくるね、とお母さんに歩きの合間にLINEしたけれど、お母さんからは「そうなの? 急だね。まあ伊月はマイペースだからねー」とのんびりした返事。
少しは心配して欲しかった。
このあたりは、六月にはホタルが見られるくらいの田舎なのに、日が暮れ始めた河川敷に行ってみると、それなりには人が集まってきていた。運良く空いていた錆びたベンチに陣取って、みんなが友達同士、彼氏彼女同士で買ってるわたあめやりんご飴を、じとーっとした目で「眺めて」いた。
喉が渇いてる。夏なのにペットボトルさえ持ってきてない。でも、このベンチから動きたくない。せっかく座れたんだもの。この場所、動いたら誰かにとられてしまうもの。
花火が始まるまで、喉の渇きに耐えていたらいい。
いつのまにか、ぐんと闇が深くなり、屋台の明かりだけが地上の星のように輝く暗闇となった。
肩にヒヤリとしたものが当たった。ラムネの瓶。
このベンチは二人がけで、ベンチの隣にさっきから座ってた人。相席したって、顔なんか見ないよね。たまたま、そこに居合わせただけの人。



